2021 年 65 巻 2 号 p. 35-39
カイコ(Bombyx mori)の繭および絹を希酸によって部分的に分解し,得られたペプチド断片をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF MS)によって測定した.この酸による速やかな断片化は野蚕や野性ガの繭にも見られ,絹タンパク質に特有な現象と考えられた.MALDI-TOF MSによって得られたペプチドマスフィンガープリント(PMF)は精練過程(生繭,加熱処理繭,煮繭,炭酸ナトリウム処理繭,およびマルセル石鹸処理繭)で変化した.各品種間でPMFを比較したところ差異があり,それに基づいてデンドログラムを描くことができた.これまでできなかった絹糸の品種同定および品質の評価がMALDI biotypingの手法を用いれば短時間でできると期待された.