2024 年 18 巻 1 号 p. 71-78
1960年代に提唱された確率的コンピューティングのフレームワークを用いると,特定の算術演算器を極めて少ない素子で表現できるため,超並列・省電力ハードウェアが構成可能になる.ただし,できる算術演算は限られ,演算精度と演算時間のトレードオフの課題も残る.近年,算術演算が比較的限られ,かつ低精度でも“それなり”の性能を出せるAIの演算(推論・学習の演算)に確率的コンピューティングを適用する試みが行われてきた.AI適用において残る課題は,パラメータを保存するメモリとの界面(通常演算と確率演算のインタフェース)のオーバーヘッドが大きいことであるが,この問題についても近年解決の糸口が見えている.これらの技術を統合すると,AIの推論・学習に必要な全ての演算素子・メモリを「確率的インメモリコンピューティング」で計算できるエッジAIハードウェアの未来が描ける.本稿ではそれらの要素技術,課題・問題の解決策,統合AIアーキテクチャについて解説し,確率的インメモリコンピューティングの実AI応用について俯瞰する.