抄録
内閣府は1976 年以来、10 回の森林・林業に関わる世論調査を実施している。いずれも3,000 もしくは5,000 人の成人への個別面接を通じたものである。本稿では、この長期にわたる貴重な調査結果を用いて、2000 年代における林業に関する国民ニーズの変化を明らかにした。森林に期待する働きとして木材生産機能をあげる人々の割合は、1980 年代から1990 年代にかけて大幅に減少したが、2000 年代に入ってから緩やかな増加に転じた。だが、木材供給や利用に関わる行政施策のニーズは、2000 年代を通じてほぼ変化していない。木材生産機能への期待と山村住民の支援のための行政施策のニーズは、次第に農村部の人々よりも都市部の人々で高まるという現象が2000 年代に生じた。国産材利用が森林整備に役立つと考える人々は8 割にのぼるが、住宅取得時に国産材の使用を考慮する人々は3 割ほどにとどまる。住宅取得時に使用される木材が適切な管理がなされている森林から生産されたか否かを考慮する人々は約15% で推移している。森林整備の実施の判断において経済効率を第一に考える人々が増加しているのも2000 年代に出現した動向の1 つである。