抄録
適切な森林管理と林業経営を行うには気象害に対するリスク管理が必要で、被害率の推移や地域・樹種による違いを把握することは重要である。近年、地球温暖化に伴い乾燥が立木の枯死衰退に及ぼす影響の評価が世界的に注目されている。本研究では干害に着目し、林野庁が全国の民有林を対象に収集する気象害データ (森林被害報告) を用いて1959-2014年の干害実損面積の推移を明らかにし、さらに詳細な属性情報が得られた1978年以降の36年間について人工林1齢級 (1-5年生) の被害率の都道府県や樹種による違いを評価した。人工林1齢級は民有林干害実損面積の95.3%を占め、その被害率は1959-2014年の平均で0.26%、年々変動が大きく有意な増加・減少傾向は見られなかった。都道府県別で比較すると、北陸、甲信、近畿、中国地方及び香川県で被害率が大きく、北海道、東北、関東、東海、九州で比較的小さかった。主要造林樹種であるスギとヒノキの民有人工林1齢級被害率を比較すると、17都道府県でヒノキの方が有意に大きく、スギの方が有意に大きいのは2県のみであった。夏から秋にかけて著しく寡雨であった1994年の九州では、壮齢林でまとまった被害が生じた。壮齢林での被害は経済的にも生態系攪乱としても影響が大きいことが想定されるが、発生頻度が少ないため長期的動向を知るには継続して全国の気象害情報を網羅的に収集する必要がある。