抄録
スギを対象とし、少量の花粉を有効活用しつつ作業性を高めた授粉の促進技術として、溶液授粉の野外における適用の可否を検討した。まず花粉の懸濁液の保存時間が花粉の活性に及ぼす影響を評価したところ、花粉は溶液に懸濁してから12時間まで、懸濁直後と同程度の活性を保つことができた。複数の母樹に対して3つの濃度の懸濁液 (0.2、0.5および1.0%)による溶液授粉を複数の雌花の開花ステージ (開花開始、半開、全開) について行った。また、溶液授粉由来であった実生の割合 (交配成功率) をDNAマーカーを用いた父性解析によって評価した。球果の結果率、生産される種子の100粒重に対しては、溶液授粉の効果は認められなかったが、種子の発芽率に対し、1.0%の溶液授粉は有意な正の効果があった (p< 0.05)。交配成功率に対しては0.5および1.0%濃度の溶液授粉に有意な正の効果があり (p< 0.05およびp< 0.01)、0.5%よりも 1.0%濃度の方が交配成功率の予測値が高かった。また雌花の開花のステージに関しては半開のステージで授粉処理を行うと交配成功率が高い傾向があり、半開の雌花に1.0%の懸濁濃度の溶液授粉を行うことにより0.362の交配成功率が予測された。これらのことから、野外でも溶液授粉により一定程度の効果が期待できることがわかった。