森林生態系の物質収支を明らかにする際に樹木の養分蓄積速度を推定することが重要であり、適切な推定手法を選択することが必要である。本研究では日本の4つの森林(大谷山、上賀茂、桐生、鷹取)において養分循環を比較し、2通りの手法で樹木の養分蓄積速度を推定した。短期的な手法では数年間の2つの時期における樹木の養分含有量を算出するのに対して、長期的手法ではある時期の養分含有量を林齢で割って算出する。長期的手法による樹木の養分蓄積速度は短期的手法による推定よりも低い値を示した。長期的手法によるカリウム、マグネシウム、カルシウムの風化速度は短期的手法よりも低い値を示した。養分が乏しい森林では、短期的手法による風化速度は高く過大であった。土壌窒素放出速度は長期的手法で短期的手法よりも小さく、窒素制限の森林では短期的手法による推定が過大であった。これらをまとめると、長期的手法による風化速度と窒素放出速度は樹木の養分蓄積速度が一定であることを仮定するものの、森林生態系の養分の持続可能性を評価する際には有益であった。