2023 年 19 巻 p. 34-38
大豆は機能性に富む食品であり,とくにたんぱく質画分は様々な代謝改善効果を有することが知られている.β-コングリシニンは大豆たんぱく質の約20% を占め,脂質の分解促進や吸収阻害など脂質代謝改善効果において重要なたんぱく質画分と考えられている.β-コングリシニンによる代謝改善効果の分子機序を解明するため,これまでわれわれは肝臓を中心とした分子栄養学的解析を行ってきた.マウスを用いた摂食実験により,β-コングリシニン摂取後,早期に応答するエネルギー代謝制御因子の同定を試みた.肝臓のトランスクリプトーム解析の結果,β-コングリシニン摂取によりFGF21 growth factor 21)の発現が顕著に増加することを見いだした.FGF21 は絶食応答性ホルモンとして知られており,主に肝臓で合成・分泌される.血中に分泌されたFGF21 は脂肪組織,肝臓,脳などの標的臓器に作用し,抗肥満効果や脂質代謝改善効果を発揮することが知られている.また,FGF21 のトランスジェニックマウスは長寿であり,老化制御の機能も示唆されている.FGF21 欠損マウスにβ-コングリシニンを含む高脂肪食を摂取させた結果,野生型マウスで見られる代謝改善効果が低下した.肝臓の遺伝子発現解析の結果,転写因子ATF4 の複数の標的遺伝子がβ-コングリシニンにより増加することが示された.われわれはFGF21 がATF4 の標的遺伝子であること,ATF4 の阻害によりβ-コングリシニンによるFGF21 の発現増加が抑制されることを見いだした.さらにβ-コングリシニン摂取により,門脈中のメチオニン量が低下することが示された.これらの結果から,大豆たんぱく質β-コングリシニンはATF4-FGF21 経路の活性化を介した代謝改善効果を有することが示された.本稿ではFGF21 と大豆たんぱく質との関連を中心に大豆の機能性について概説する.