2023 年 19 巻 p. 84-89
認知症患者は世界的に増加しており,2050年までに1億3000万人が罹患すると予想されている(World Alzheimer’s disease Report, 2015).認知症患者の中で約7 割がアルツハイマー病Alzheimer’s disease,AD)と考えられ,AD に対する治療薬の開発が急がれている.これまで様々な創薬標的が提示されてきたが,病態の進行そのものを抑制できる低分子化合物による疾患修飾薬は開発に成功していない.AD の発症には食事の習慣と相関があるといわれ,多くの機能性食品が認知症に効果があるという報告があるが,分子レベルでのメカニズムはあまり明らかになっていない.本研究ではAD の発症に重要な役割を持つβアミロイド42(Aβ42)に注目して,Aβ42 の神経毒性をショウジョウバエモデルでモニターできる解析系を確立することにより機能未知の化合物から治療薬の同定を試みた.認知症に対して治療効果があると考えられているイチョウ葉,ラフマ葉,大豆,黒ウコン,ブドウ種子,ピーナッツ種皮,緑茶などからの生理活性物質を集めた化合物ライブラリーを調べたところ,既存のQuercetin やKaempferol に加えて3つのポリフェノール化合物が同定されて きた.分子間相互作用を用いた解析から,薬剤検索から同定されてきた化合物の多くはAβ42 に直接結合することが確かめられたことから,ショウジョウバエモデルを用いた薬剤開発からAD 治療薬の創出につながる可能性が期待される.