1980 年 20 巻 2 号 p. 29-38
大学における小学校専門理科の講義の中で,「ニクロム線の発熱問題」を出題し,その正答率を調査したところ,正答率は1~2割程度しかなかった。この問題は小学5年の理科の「電流と発熱」の単元のところで学習する問題であるが,大学生の出来具合は予想外に悪かった。大学生の理科の基礎知識の欠如に気づかされた。そこで,この問題について,小,中,高,大の学校種別にその正答率がどう変わるかを調査してみた。その結果,小学6年での正答率が約4割でいちばん高く,中学,高校,大学と学年が進むにつれて,その正答率は低下していった。学年が進むにつれて,なぜ正答率が下がるのか,その理由について考察した。また,学年が進むにつれて,正答率が下がる他の事例についても紹介した。その中で, 「ニクロム線の発熱問題」に関しては,他大学の調査結果でも,同様な傾向が出ていることがわかった。以上の調査結果から考えて,これまでの理科教育によって,自然認識は必ずしも深まっているとはいえないことがわかった。これまでの理科教育を反省し,つぎのような理科教育の問題点について考えてみた。(1)小,中,高,一貫性のある理科カリキュラムの問題 (2) 発達段階に応じた理科授業の進め方 (3) 理科知識の確実な理解とその体系化 (4) 理科実験のあり方