日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
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20 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 笠原 始
    1980 年20 巻2 号 p. 1-8
    発行日: 1980年
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    このたびの教育課程の改訂により,6学年で指導されていた光合成は,4学年へ位置づけられ,すでに,4学年の移行措置として指導されているが,葉の同化でんぷんの形成が児童の問題解決になりにくいという問題点が指摘されている。本研究は,こうした問題に取り組み, Vol.19, No. 1で報告した調査研究を基盤として学習指導を実施し,その結果を分析して望ましい指導のあり方を解明しようとした。研究対象は,岡山県下各地から10校を選び,各校の4学年のすべての児童(1,216人)とした。調査結果から次のことがわかった。1. 光合成についての問題意識を構成する場は,新しいいもができかけたとき,種いものでんぷん移動説を契機として「種いもから移ったとしたら,他の部分(葉・茎)へもでんぷんが行っているだろうか。」と想を拡げてやると, 葉のでんぷんの存在に対する問題意識を持たせることができる。次に, 露地の葉と室内の砂栽培とで同化でんぷんの形成を比較させることにより,日光のはたらきに着目させることができる。2. 成長の過程で種いものでんぷんの変化を調べたり,種いもより収穫量が多いことが確認できたりすると,でんぷん移動説が覆されやすく,葉のでんぶんが新しいいもに貯蔵されたと考えやすいので,光合成の理解を深めることができる。3. 同化でんぷんの検出法については,青汁加熱法が4学年の児童の発達段階に即しており,実験結果も明瞭で,光合成の理解もすぐれている。

  • 本田 隆則, 秋本 健, 長沢 千達
    1980 年20 巻2 号 p. 9-14
    発行日: 1980年
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    学習指導要領によれば,炭酸に関係ある内容は,小学校5年生B区分,(1)のア,イ,エに相当するであろう。 (1)は水溶液の性質を理解させるのが目慄であるが,ここでリトマスや石灰水を使い,気体が水に溶けることを扱うことになる。このことはまた,気体が水に溶けることの反対に,溶液(炭酸水)から集めた気体(二酸化炭素)の性質を調ぺるという指導方法も考えられるところで,このための資料として炭酸水だけでなく,市販の炭酸飲料についても調べてみた。これらの溶液の性質については,炭酸以外は酸味料が入っていて,常に酸性を示しているので,溶液の性質を調べるには指導上の工夫がいるところであろう。しかし溶けている気体を取り出すことや,取り出した気体を再び水に溶かしてその性質を調べるのには支障はない。そこで気体捕集法として,市阪されている炭酸および炭酸飲料の栓を抜くことなく,液中に加圧溶解されている二酸化炭索を直接捕集する方法を工夫してみた。その結果,一般に市販されているものなら,その容器の内容積の約 2.5倍の二酸化炭素を楽に捕集することができた。また市販炭酸(飲料)をpH指示薬およびpH試験紙等で調べ,さらにくわしくpH計を用いて測定してみた。それによると炭酸の開栓直後はpH4.5を示し,時間の経過とともにに6.5近づいている。また炭酸飲料ではpH2.3から2.6の間にあり,これは容器に表示されているように少星の酸味料(酒石酸と思われる)が溶けているためで,時間が経っても同じpH値で変らない。これらのことから炭酸の場合は,リトマスを使うのはその変色域から考えて不適当であり, BTBの方がよいことがわかる。さらに常温では炭酸の濃度が最大であっても,リトマス液が変色するかしないかはどちらともいえず,リトマス試験紙ではその変色はほとんど期待できない。これは炭酸の濃度不足によるのではなく,リトマスが混合色素で変色域が不確実なためであると考えられる。

  • 秋本 健, 長沢 千達
    1980 年20 巻2 号 p. 15-22
    発行日: 1980年
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    学習指導要領によれば, 中学校第一分野(6)のイ,(ウ)の項に金属の酸化や金属酸化物の還元において,その反応に関係する物質の重さの比は一定であることを学ぶことになっている。これについて教科書に示された実験を見ると,ほとんどが銅,マグネシウムあるいはスチールウールを酸化させ,金属酸化物として質量の変化を把握させる方法がとられている。その方法の一つに,ガラス管に銅網を詰める酸化還元装置がある。これに,どこでも入手できる家庭用電気コードの芯線をほぐして丸めて詰め,銅網の代用として使ってみた。これを加熱し,空気を通じて反応をすすめるためには,管内の混度は350°c以上になっていることが必要な条件である。この温度は管内を通る空気の流速にもよるが大型アルコールランプの炎ではやや不十分で,ガスバーナーでなければ十分ではない。またこの温度では,この装置のガラス管はバイコールガラスか,石英ガラスででなければ軟化変形してしまう。実験の結果は,酸化銅と還元銅の変化が黒色と赤銅色の変化で認めることができる点では効果的であるが,酸化による質量の増加は,同じ質量の銅粉を用いたときの1/15以下であった。しかし銅線の質量を5g以上で比例的にとると,酸化による質量の比例的な増加を上皿てんびんで確かめることができる。なお実験値をもとに,ガラス管に詰めた銅線の直径(2r)と質量(M)から,この装置の酸化還元能力を酸素の体積 (V)で求める一つの目安の式を示した。それは350°c以上の温度条件で, 酸化の最大値をとることにして, 20°C, 1気圧のもとで次式で示すことができる。V(20℃, 1 atm.)=2.07・(M/2r)・10-4······(ℓ)

  • 田中 利一郎
    1980 年20 巻2 号 p. 23-28
    発行日: 1980年
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    高等学校物理における電気教材はその総合的理解を深めるために,静電気の学習の成果を基礎として電流の学習を行なうようになっている。しかし現実には静電気の学習が電流の学習の基礎として効果を上げているかと言う点では疑問がある。それは,静電気の教材が小学校・中学校で殆んど学習されていないのに,電流の学習は非常に詳細に学習されている。このような不均衡のもとでの高等学校における静電気の学習は,最初に定性的な坂扱いを十分にして後に定量的実験,法則化の方向をとるべきである。しかるに,教科書に取上げられている実験は定性的なものと定量的な実験とを混同して学習するようになっている。そのうえ,使用している機器・計器が電流の学習に使用している機器類に比較して少く,定量的実験をするためには大変幼稚的すぎるなどの点を上げることができる。本論文では現在理科機器として市販されている機器類の中にも十分定量化機器として使用できるものがあること,これらを取入れることにより静電気教材の問題点を解決することができることを示した。さらに,我々の試作器についても以上の目的に有効な使用ができることを示した。

  • 西岡 正泰
    1980 年20 巻2 号 p. 29-38
    発行日: 1980年
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    大学における小学校専門理科の講義の中で,「ニクロム線の発熱問題」を出題し,その正答率を調査したところ,正答率は1~2割程度しかなかった。この問題は小学5年の理科の「電流と発熱」の単元のところで学習する問題であるが,大学生の出来具合は予想外に悪かった。大学生の理科の基礎知識の欠如に気づかされた。そこで,この問題について,小,中,高,大の学校種別にその正答率がどう変わるかを調査してみた。その結果,小学6年での正答率が約4割でいちばん高く,中学,高校,大学と学年が進むにつれて,その正答率は低下していった。学年が進むにつれて,なぜ正答率が下がるのか,その理由について考察した。また,学年が進むにつれて,正答率が下がる他の事例についても紹介した。その中で, 「ニクロム線の発熱問題」に関しては,他大学の調査結果でも,同様な傾向が出ていることがわかった。以上の調査結果から考えて,これまでの理科教育によって,自然認識は必ずしも深まっているとはいえないことがわかった。これまでの理科教育を反省し,つぎのような理科教育の問題点について考えてみた。(1)小,中,高,一貫性のある理科カリキュラムの問題 (2) 発達段階に応じた理科授業の進め方 (3) 理科知識の確実な理解とその体系化 (4) 理科実験のあり方

  • 中村 重太
    1980 年20 巻2 号 p. 39-48
    発行日: 1980年
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    理科の学習活動における事故はいっこうに減少していない。事故が起こると,肉体的損傷に止まらず,児童・生徒の活動や教師の指導姿勢にも多大な悪影響を及ぼす。制作活動や観察・実験活動が重視されている新しい理科教育においては,より一層の安全教育の充実が望まれている。しかし,従来の安全教育は,危険な機器・薬品の扱い方や事故の応急処置法などの知識面・技術面に偏重していた感があるが,むしろ,これからは事故の防止を重点とした管理・整備の徹底及び児童•生徒と教師の態度・心構えの育成が重視されなければならない。そこで,基礎的な知識の習得や態度・心構えの育成を含めた安全教育をいかに理科指導の中に位置づけるかを課題として研究を始めた。その緒として, hazards drawingを自作し,これを安全教育の導入の一つの手段として活用することを試み,あわせて児童・生徒の安全意識の実態を調査した。hazards drawingの作成・活用の目的と調査の内容は,次に示すとおりである。〔目 的〕安全教育導入の一手段としてのhazards drawingの有用性を調べる。〔調査A〕 自作したhazards drawingを用いて「加熱実験活動におけるどのような危険に気付くか。」を調べる。〔調査B〕 「加熱実験操作等に関する基礎的知識をどの程度正しく理解しているか。」を調べる。この結果,次のことがわかった。① hazards drawingの使用は非常に有益で,多くの望ましい結果を生じた。② 調査Aからは,チェックされた危険の種類やその数は,小学校5年生で急増すること,男女差は少なく,小学校においては学校差が大きいこと。③ 調査Bからは,ガスバーナーの扱い方では,高校1年生でさえ,約60%が危険な点火をすること。

  • 恩藤 知典
    1980 年20 巻2 号 p. 49-55
    発行日: 1980年
    公開日: 2025/06/11
    ジャーナル フリー

    近年,理科教育では,子どもたちに野外で自然の事象を直接経験させる学習が重視されている。しかし,野外学習に関する系統的な研究は行われていない。そして,経験にもとづく勘と思いつきによって指導計画がたてられている。特に,野外学習で必らず直面する筈の空間環境の認知については基礎的な研究の例すらほとんど無い。そこで,筆者は心理学の研究者の協力を得て,小学校5,6学年の児童(同じ児童を2年問継続)を対象に,比較的閉じた空間環境である秋)I渓谷(東京都五日市町)と360度の視界がきく丸岳(箱根外輪山の主峰)の山頂で,空間認知の過程を明らかにするための2つの野外実験を行った。これらの実験では,空間環境の経験のさせ方を変えたり,インストラクションを変えて認知地図をえがかせ,その地図を構成するいくつかの要素について分析的に研究した。その結果,子どもたちの空間環境の把握に関して次のような知見を得ることができた。1) 秋川渓谷沿いに歩かせたあと,全体の景観がとらえにくいところで地図をえがかせたところ,大部分の児童は,環境を構成する諸要素を真上から見たかたちでとらえ,いわゆる地図のような図をえがくことができた。しかし,これに対して,同じ児童に高い所から秋川渓谷を見下ろしながら地図化させたところ,遠近画法でえがいたような図になってしまった。2) 真上から見るような視点によってえがかれた地図では,ランド・マーク(地図作成のために指示した指標)間の距離の比率が比較的正確にとられている。3) 丸岳山頂からの地図化では,多くの児童は環境構成物を斜め下に見下ろし,それらが自分の現在位置をとりかこむように,星形に配置させた図をえがいている。4) 丸岳山頂での地図化では,現在位置がどんなところでまわりにどんなものが見えたかを家族に知らせられるような地図をえがけと指示したグループと,ただ,地図をえがけと指示したグループに分けて実験した。このインストラクションの違いのため,前者のグループは後者のグループに較べて,ランド・マークの配置が正しく,また,ランド・マークに対するコメントが多い結果になった。

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