1991 年 32 巻 2 号 p. 19-25
中学校学習指導要領の改訂により、現行の「水溶液の濃度・液量と生成物の量」の内容は、新たに「過不足なく反応する酸とアルカリの濃度と体積」の項で扱うようになっている。移行期の教科書に取り上げられている水酸化バリウムと硫酸との中和反応を検討し、次の諸点を明らかにした。1) 新指導要領を意識した取り扱いが過半数を占めるが(3/5)、そのうち生徒実験用の教材は1例のみであり、その例でも中和点を硫酸バリウム沈澱の高さの違いによって調べるのには無理があること。2) 酸性、中性、アルカリ性、3領域での硫酸バリウムの粒度は、弱カチオン系高分子凝集剤(C-620)を50~100 ppm添加することにより揃えることができ、その際10分後には沈澱の量比を高さの比として読み取れるようになること。3) 凝集剤を含んだ水酸化バリウム水溶液を使用すれば、生徒に余分な疑問を持たせることなく授業実験ができ、中和反応を沈澱の高さの変化によって追跡する教材が完成度の高いものになること。また、凝集剤を用いた中和反応を中学生による課外実験として実施し、生徒実験として無理を生じないこと、電流値によって調べる方法よりも分かりやすいこと、生徒の興味・関心を喚起し得る題材であることなどを明らかにし、この教材が新指導要領のもとで効果的に活用できることを示した。