抄録
肥満者では脂肪細胞の肥大を認めるが, 肥大した脂肪細胞からはTNFα, レプチン, PAI-1, レジスチンなどのサイトカインや遊離脂肪酸(FFA)が過剰に産生される. このうちTNFα, レジスチン, FFAは骨格筋や肝臓でインスリンの情報伝達を障害しインスリン抵抗性を惹起する. 脂肪細胞肥大のマスター調節メカニズムは明らかでなかった. しかし, 核内受容体型の転写因子の一つであるperoxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)ヘテロ欠損マウスでは高脂肪食下でも脂肪細胞肥大, 脂肪蓄積, インスリン抵抗性が抑制されていたことから, 高脂防食負荷といった生理的濃度のリガンドにさらされた場合PPARγが脂肪細胞肥大, 脂肪蓄積とインスリン抵抗性を媒介する, というモデルを世界で初めて提唱した. PPARγ遺伝子はこのように高脂肪食下でエネルギー貯蔵に作用し, 典型的な倹約(節約)遺伝子“thrifty gene”として働くと考えられる. PPARγ遺伝子の量的低下(PPARγヘテロ欠損マウス)に加えて機能低下(ヒトPPARγ遺伝子Pro12Ala多型)もインスリン感受性·2型糖尿病発症抑制の方向に働く. 従って, PPARγ遺伝子を標的としてその活性を低下させる薬剤はインスリン抵抗性·2型糖尿病の治療につながると推測された. そこでPPARγとヘテロダイマーを形成しているRXRに結合し, PPARγ/RXRヘテロダイマーの阻害剤として働く新規化合物HX531の作用を肥満·2型糖尿病モデル動物のKKAyマウスで検討した. KKAyマウスは高脂肪食負荷によって著明な体重増加を呈したが, HX531の投与を行うと高脂肪食下でも体重の増加が完全に抑制されていた. また, 脂肪細胞肥大もほぼ完全に抑制された. 更に, 高脂肪食による高血糖·高インスリン血症·インスリン抵抗性も, HX531によりほぼ正常化した. 以上より, PPARγ活性を中等度に低下させる薬剤は抗肥満, 抗糖尿病作用を有することが初めて示された.