日本薬理学雑誌
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118 巻, 5 号
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ミニ総説号 「抗肥満症をめざした創薬: 過去、現在、未来への展望」
  • 深川 光司, 坂和 利家
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 303-308
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    脳内モノアミン, つまりカテコールアミン, ドパミン, セロトニン(5HT), ヒスタミンなどが挙げられるが, これらの含有ニューロンは食欲を調節する神経回路網を形成する. これらの食欲調節系を制御する抗肥満薬が長年月を掛けて開発され, 臨床でも使用されてきた. 現在, 欧米で市販されている脳内モノアミン作動薬には, β-アドレナリン受容体作動薬と5HT受容体作動薬がある. 5HT作動薬のdexfenfluramineは肺高血圧症や心臓弁膜症を起こす事から, アメリカでは1997年に使用禁止になった. これらの副作用はsibutramineのような5HTの再取込み抑制薬では認められない. カテコールアミン作動薬のamphetamineは体重を減少させるが, 習慣性や乱用の危険性がある. 同じ系列に属すdiethylpropionはカテコールアミン作動薬ではあるが, 副作用の発現が少ない. Mazindolは現在のところ本邦で使用できる唯一の抗肥満薬である. カテコールアミン分泌を促進する作用がないため, 薬物依存性や覚醒作用はほとんど認められない. アドレナリンと5HTの両モノアミン作動薬としてsibutramineがある. Sibutramineとその代謝産物は, これらモノアミンの再取込みを阻害するので食欲の抑制作用がある. 加えて, 褐色脂肪組織のβ3-アドレナリン受容体を活性化し, 間接的に熱産生を刺激する作用がある. 我が国でも現在臨床試験が行われている. 中枢性モノアミン制御系の抗肥満薬を今後開発するには, 1)減量効果が大きい, 2)副作用が少ない割には安全性が高い, 3)リバウンドが小幅にとどまる, 4)耐性が出来難い, 5)末梢でのエネルギー消費を亢進させる, こういった性状を備えた創薬が望まれる. その意味では, ヒスタミンの前駆物質であるL-ヒスチジンは以上の要件を満たす. 抗肥満薬を対象にする場合, その創薬のコンセプトには薬物としての食事という思考法も含まれてよい.
  • 日高 周次, 小川 佳宏, 中尾 一和
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 309-314
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    ob/obマウスの病因遺伝子であるレプチンが単離同定されて以来, 肥満研究は新しい局面を迎えようとしている. レプチンは脂肪組織より分泌されるホルモンであり, 末梢の脂肪貯蔵量を視床下部に伝達し, 視床下部の摂食·代謝調節因子をコントロールし, 体重を一定に保つ働きを有していると考えられている. レプチンによって制御される摂食·代謝調節因子は抗肥満薬の標的として重要となる. その中でも特に注目を集めている分子として, ニューロペプチドY, メラノコルチン受容体とそのアゴニストとアンタゴニスト, melanin concentrating hormone, cocaineand amphetamine-regulated transcriptなどがある. 今後これらの作用を調節する分子の開発が, 抗肥満薬の創薬に関して重要であると考えられる.
  • (過去·現在·未来への展望)
    高倉 康人, 吉田 俊秀
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 315-320
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    β3-アドレナリン受容体(β3-AR)は白色脂肪組織における脂肪分解と褐色脂肪組織における熱産生に大きな役割を果たしている. 1984年に開発されたβ3-ARアゴニストは肥満動物において著明な抗肥満効果を示したが, 初期に開発された薬剤は, ゲッ歯類には著効してもヒトには効果がなかった. この効果差の原因は, 1989年になり, ヒトとゲッ歯類のβ3-ARの化学構造上の種差によることが明確になった. 1995年にはヒトβ3-AR遺伝子のTrp64Arg変異が内臓脂肪型肥満, シンドロームXと強く関連していることが明らかになり, β3-ARの体脂肪調節に果たす役割の重要性が注目を集めた. β3-ARアゴニストは褐色脂肪細胞に作用し, 熱産生に中心的役割を果たす脱共役タンパク質1(UCP1)を増加させる. さらに白色脂肪細胞および骨格筋にもUCP1を発現させる働きも併せ持つため, 褐色脂肪組織の少ないヒト成人においても有効であることが期待されている. 近年, 脂肪細胞が, レプチン, TNF-α, PAI-1といったサイトカインを分泌し高血圧, 糖尿病などの発症に密接に関与していることが次々と明らかにされた. これら生活習慣病の根本的な治療として, 内臓脂肪量の減量が重要視され, 抗肥満薬としてのヒトβ3-ARアゴニストの開発に期待が高まり, 臨床治験が進められている. また, 臨床応用時に懸念されるβ3-ARミスセンス変異の有無による効果の差や,慢性投与時の受容体の発現調節についても興味深い知見が得られている.
  • 門脇 孝
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 321-326
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    肥満者では脂肪細胞の肥大を認めるが, 肥大した脂肪細胞からはTNFα, レプチン, PAI-1, レジスチンなどのサイトカインや遊離脂肪酸(FFA)が過剰に産生される. このうちTNFα, レジスチン, FFAは骨格筋や肝臓でインスリンの情報伝達を障害しインスリン抵抗性を惹起する. 脂肪細胞肥大のマスター調節メカニズムは明らかでなかった. しかし, 核内受容体型の転写因子の一つであるperoxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)ヘテロ欠損マウスでは高脂肪食下でも脂肪細胞肥大, 脂肪蓄積, インスリン抵抗性が抑制されていたことから, 高脂防食負荷といった生理的濃度のリガンドにさらされた場合PPARγが脂肪細胞肥大, 脂肪蓄積とインスリン抵抗性を媒介する, というモデルを世界で初めて提唱した. PPARγ遺伝子はこのように高脂肪食下でエネルギー貯蔵に作用し, 典型的な倹約(節約)遺伝子“thrifty gene”として働くと考えられる. PPARγ遺伝子の量的低下(PPARγヘテロ欠損マウス)に加えて機能低下(ヒトPPARγ遺伝子Pro12Ala多型)もインスリン感受性·2型糖尿病発症抑制の方向に働く. 従って, PPARγ遺伝子を標的としてその活性を低下させる薬剤はインスリン抵抗性·2型糖尿病の治療につながると推測された. そこでPPARγとヘテロダイマーを形成しているRXRに結合し, PPARγ/RXRヘテロダイマーの阻害剤として働く新規化合物HX531の作用を肥満·2型糖尿病モデル動物のKKAyマウスで検討した. KKAyマウスは高脂肪食負荷によって著明な体重増加を呈したが, HX531の投与を行うと高脂肪食下でも体重の増加が完全に抑制されていた. また, 脂肪細胞肥大もほぼ完全に抑制された. 更に, 高脂肪食による高血糖·高インスリン血症·インスリン抵抗性も, HX531によりほぼ正常化した. 以上より, PPARγ活性を中等度に低下させる薬剤は抗肥満, 抗糖尿病作用を有することが初めて示された.
  • 斉藤 昌之, 大橋 敦子
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 327-333
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    筋肉運動とは別に, 食事や薬物によって代謝的熱産生を増やし体脂肪を減少させようとする試みのターゲットとして, ミトコンドリア脱共役タンパク質UCPが注目されている. UCPはプロトン輸送活性を有しており, その名の通りミトコンドリア内膜での酸化的リン酸化反応を脱共役させて, エネルギーを熱として散逸する機能を持っている. 代表的なUCPである褐色脂肪細胞UCP-1の場合, 寒冷曝露や自発的多食などで交感神経の感動が高まると, 放出されたノルアドレナリンがβ3受容体に作用して細胞内脂肪の分解を促し, 遊離した脂肪酸がUCP-1のプロトン輸送活性を増加させると同時に, 自ら酸化分解されて熱源となる. 更にノルアドレナリンの刺激が持続すると, 転写調節因子や核内受容体の作用を介してUCP-1遺伝子の発現も増加する. 従ってこれらの関与分子を活性化すれば, 熱産生の亢進と肥満軽減の効果が期待される. 事実, β3受容体に対する特異的な作動薬を各種の肥満モデル動物に投与すると, エネルギー消費が増加し体脂肪が減少することが確かめられている. 最近各種のUCP isoformが発見され, 特にUCP-2は広く全身の組織に, またUCP-3は熱産生への寄与が大きい骨格筋に高発現していることが明らかになって, 肥満との関係に多くの関心が集まっている. 現在までに, これらUCPの遺伝子発現の調節については多くの知見が集積したが, 今後, 脱共役機能自体の解析を進めることが抗肥満創薬において重要である.
  • 加隈 哲也, 坂田 利家
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 334-339
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    ob/obマウスにレプチンを投与すると体重が減少する. その機序には, 視床下部を介した食欲抑制と交感神経を介したエネルギー消費亢進の両作用, さらには脂肪組織への直接脂肪分解作用によることが知られている. レプチン値が既に高い肥満動物へ更に高濃度のレプチンを投与すると, 食事量はコントロール群と同じであるにもかかわらず, 体脂肪組織含量が減少する. この結果はレプチンの髄液移行が低下している肥満動物や肥満患者でも, レプチンが脂肪組織に直接作用することで, 脂肪分解を誘発し体重を減少させたと解釈できる. アデノウイルスベクターを用いてレプチンを高発現させると, 脂質代謝調節系や脱共役タンパク質群(uncoupling proteins, UCP familly)の遺伝子発現が変化し, 長期にわたる減量効果が得られる. レプチンの持つこの脂肪分解作用は, 中枢作用とは別途に, 抗肥満薬の開発にとって魅力的な結果と言えよう. レプチン抵抗性の肥満患者を治療対象にする場合, 副作用をおこすことなく, より効果的なレプチンの投与方法を如何に開発するか, 今後の大きな課題である.
  • 辻 正富, 斉藤 宣彦, 井上 修二
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 340-346
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    消化吸収阻害系薬物には, 1)脂質吸収阻害薬と2)糖質吸収阻害薬がある. 脂質吸収阻害薬としてはオルリスタットが, 米国, 欧州で実用化されている. 本邦でも治験が開始されている. カワラケウメイ抽出物はその作用成分が同定されれば薬物として開発される可能性があるが, 当面は食品添加による特定保健用食品(機能性食品)としての実用化が考えられる. 脂肪代替食品としては脂肪の味覚を保持し, 消化吸収されないオレストラ, 蔗糖ポリエステルがあるがまだスナック菓子の添加物として使用されている段階である. 糖質消化吸収阻害薬としては主として, 小腸絨毛にある二糖類分解酵素活性を阻害するα-グリコシダーゼ阻害薬が食後高血糖を抑制する作用により糖尿病薬として実用化されている. これが抗肥満薬として開発されるには下痢, 放屁等の消化器系副作用の克服が鍵になる.
  • 奥田 拓道, 韓 立坤
    専門分野: その他
    2001 年 118 巻 5 号 p. 347-351
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    肥満症だけでなく, 単純肥満も含めた抗肥満をめざす創薬について考察した. 脂肪細胞における脂肪の合成が分解を上回ることによって, 脂肪の蓄積が進み, 肥満になることに基づいて, 脂肪合成を低下させる機能物質を探索することにした. 脂肪合成には, グルコース経路とリポタンパク経路があるが, 脂肪細胞へのグルコースの取り込みは, インスリンによってコントロールされているのに対し, リポタンパク由来の脂肪酸の取り込みは, ホルモンの制御を受けない. また, リポタンパクの中で, 食事を通じてコントロールできるのはカイロミクロンである. そこで, 食事中の脂肪の腸管吸収を阻害することにより, カイロミクロンを低下させ, 肥満を予防するという戦略を立てたのである. その結果, 食事中の脂肪の膵リパーゼによる分解を阻害する茶サポニン, キトサン, コンドロイチン硫酸, 脂肪酸の吸収も阻害するコンドロイチン硫酸, ベーターモノグリセリドの吸収を阻害する乳化オリゴ糖などがカイロミクロンを低下させ, 高脂肪食によって誘導される肥満を予防することが明らかになった.
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