抄録
1970年代にD.M.Bowenらはアルツハイマー病(AD)患者の死後脳でコリン作動性神経の異常を報告した.彼らはAD患者脳の大脳皮質にアセチルコリン合成酵素(ChAT)活性が異常に低下していることを見出した.またE.K.PerryらはChAT活性の低下と記憶力減少とは相関すると報告した.これらの背景からコリン仮説が生まれた.コリン仮説には神経プレ側,ポスト側に作用して記憶を改善する方法があるが臨床研究で成功しているアプローチはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用に基づく方法が成功している.ドネペジルの成功は従来のAChE阻害薬とは全く化学構造が異なる点にある.4年間の探索研究は1000化合物の中から臨床上もっともバランスの良い化合物を選択できる道を与えてくれた.高い生体利用率に裏打ちされ1日1回投与を可能にした.動物実験ではAChEに対する高い選択性や優れた脳内移行性が副作用を軽減していることが考えられる.また厳密な治験活動がADAS-cogとCIBIC-plusの2つの臨床試験でプラセボと比較して極めて高い有用性を見出すことが出来た.AChE阻害薬はAD以外にレビー小体,脳血管性痴呆,偏頭痛,パーキンソン病による痴呆症などたくさんの可能性を検討している.また抗酸剤,女性ホルモンなどとの併用,そして最近,欧州と米国でAD治療薬として承認されたNMDA拮抗薬メマンチンは作用機序が異なることからドネペジルとの相乗効果などが期待されている.さらにドネペジル単独でも神経保護作用が報告されていて臨床で長期間投与したときのドネペジルの効果にさらなる検討を期待したい.またドネペジルがMCI(Mild Cognitive Impairment)に対して効果が確認されればAD予防薬の可能性がある.今後もAChE阻害薬は基礎実験と臨床試験の両面から可能性が検討されることを期待したい.