日本薬理学雑誌
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ミニ総説:神経系におけるインスリンシグナリングとその役割
インスリン受容体シグナル伝達分子の発現調節機構
横尾 宏毅菅野 孝佐藤 伸矢柳田 俊彦小林 英幸和田 明彦
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2005 年 125 巻 3 号 p. 141-146

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抄録
インスリン受容体は,肝,骨格筋,脂肪組織のみならず,神経細胞にも発現している.インスリン受容体シグナルは,神経回路網の形成·維持·修復に関与しており,記憶·学習をはじめとした脳の高次機能発現に必須であることが判明してきた.私達は,神経堤由来の培養ウシ副腎髄質クロマフィン細胞を神経細胞のモデルとして,インスリン受容体とそのシグナル伝達分子の発現調節にかかわる細胞内外の因子を検索してきた.Protein kinase C-α(PKC-α)や,glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)等のタンパク質リン酸化酵素や,細胞内Ca2+濃度の変化が,インスリン受容体遺伝子の転写·翻訳·細胞内輸送を調節する因子であった.また,インスリン受容体が成熟し,細胞膜に発現するためには,分子シャペロンであるheat shock protein-90 kDa(Hsp90)を介したインスリン受容体前駆体タンパク質のホモ二量体化や,イムノフィリンのもつペプチジルプロリル·シス-トランス·イソメラーゼ活性によるタンパク質の折りたたみが必要であった.インスリン受容体やその下流のシグナル伝達分子の発現調節機構の解明は,インスリン受容体シグナル異常が関与する神経変性疾患などの病態解明につながり,発現調節機構に作用する薬物が新たな神経疾患の予防·治療薬となる可能性がある.
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© 2005 公益社団法人 日本薬理学会
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