日本薬理学雑誌
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125 巻, 3 号
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ミニ総説:神経系におけるインスリンシグナリングとその役割
  • 荒木 栄一, 近藤 龍也
    2005 年 125 巻 3 号 p. 120-124
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    インスリンは生体において代謝調節を司る代表的なホルモンである.肝臓や筋肉などインスリンの主要な標的臓器において,インスリンシグナルは分子レベルで解明されつつある.一方,中枢におけるインスリン作用に関しては不明な点が多い.食欲を制御する視床下部において,インスリン,レプチンはともに食欲を抑制する.両ホルモンの刺激によって,視床下部においてPIP3が誘導される細胞群が存在し,このような細胞ではインスリン受容体の基質であるIRS-2も発現している.神経細胞特異的にインスリン受容体を欠損したマウスの視床下部では,インスリンによるPIP3の誘導が著明に減弱していたが,レプチン刺激ではPIP3の誘導は正常に認められた.2型糖尿病では食欲の亢進が認められる事が多く,これは中枢におけるインスリン抵抗性が関与する可能性がある.このような中枢におけるインスリン抵抗性に対して,レプチンの有効性が示唆される.
  • 水田 雅也
    2005 年 125 巻 3 号 p. 125-128
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    酸化ストレスは,老化や癌のみならず,生活習慣病の病態にも関与していることが明らかとなってきた.糖尿病においても酸化ストレス亢進が,糖尿病血管障害やインスリン作用に影響している.特に糖尿病血管障害に関しては,主として以下の4つの経路により亢進した酸化ストレスが,障害の進行に関与していると考えられる:1)ポリオール代謝亢進に伴う酸化ストレス,2)advanced glycation end products(AGEs)産生とAGEs受容体(RAGE),3)ミトコンドリア電子伝達系からのスーパーオキサイド産生増加,4)血管壁細胞におけるNAD(P)Hオキシダーゼ活性化.一方,糖尿病状態においては酸化ストレスに抗すべき酸化ストレス消去系の活性低下も生じる.8-epiprostaglandin F(8Epi)を酸化ストレスマーカーとして検討すると,糖尿病患者では酸化ストレスが亢進しているが,必ずしも血糖値の動きとは関連しておらず,高中性脂肪血症との関連性が示唆された.酸化ストレスは,血管障害のみならず,神経細胞においてもタンパク質の機能障害,細胞内輸送の障害,ひいてはアポトーシスを引き起こし,糖尿病性神経障害の病態に深くかかわっていることが明らかにされてきた.  酸化ストレスとは,「生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れ,前者に傾いた状態」と定義される.酸化ストレスは,タンパク質,脂質,DNA障害を介して,老化や癌,生活習慣病の病態に関与していると考えられている.インスリン作用が不足した状態である糖尿病においても酸化ストレスが種々の程度に亢進し,病態に影響していることが明らかにされてきた.特に糖尿病血管障害に関しては,酸化ストレス亢進により血管内皮細胞の機能障害,血栓形成やLDLの酸化変性を促進する一方,細胞内情報伝達系を修飾しサイトカイン,接着因子,増殖因子の発現を増強させて血管病変の進行を促進する.また最近では,酸化ストレスがインスリン抵抗性や膵β細胞からのインスリン分泌にも影響しうることが示されている.
  • 山本 秀幸
    2005 年 125 巻 3 号 p. 129-135
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    インスリンシグナルの主要な生理機能の一つとして,グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)活性の抑制が挙げられる.脳内でのインスリンシグナルの低下は,GSK3の活性を増加させ,神経細胞死を引き起こすことが明らかになってきた.アルツハイマー病で認められる老人斑と神経原線維変化の形成にGSK3が関与していることも示唆されている.また,GSK3の酵素反応の特徴の一つとして他のプロテインキナーゼでリン酸化されたタンパク質をリン酸化しやすいことが挙げられる.すなわち,活性型のGSK3の増加は,他のシグナル系と相互作用して,神経細胞を障害させる可能性がある.カルシウムシグナルにより活性化されるカルシウム,カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMキナーゼII)とGSK3の共通の基質タンパク質としてタウが知られている.両酵素によるタウのリン酸化が,神経原線維変化形成に関与していることが明らかになってきた.また,GSK3がWntシグナルにも関与していることから,GSK3阻害薬の有害作用も検討が必要になっている.
  • 高島 明彦
    2005 年 125 巻 3 号 p. 137-140
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    脳老化はアルツハイマー病発症以前に引き起こされ,そこでは嗅内野に神経原線維変化が生じている.アルツハイマー病では脳老化に続きβアミロイドがこの脳老化を加速し,神経原線維変化を嗅内野から辺縁系,新皮質へと拡げることで痴呆症などの症状が出現する.インスリンシグナルの低下はGSK-3βの活性化を伴い脳老化を引き起こす要因となっている.アルツハイマー病では脳老化と更にβアミロイドによるインスリンシグナルの低下が重なり,神経原線維変化,神経細胞死,シナプス消失を引き起こし,痴呆症を引き起こすことが考えられる.近年,II型の糖尿病がアルツハイマー病の危険因子であるというのはインスリンシグナルの低下が脳老化を引き起こしているためβアミロイドによってアルツハイマー病を引き起こしやすくなっているからではないかと推測される.
  • 横尾 宏毅, 菅野 孝, 佐藤 伸矢, 柳田 俊彦, 小林 英幸, 和田 明彦
    2005 年 125 巻 3 号 p. 141-146
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    インスリン受容体は,肝,骨格筋,脂肪組織のみならず,神経細胞にも発現している.インスリン受容体シグナルは,神経回路網の形成·維持·修復に関与しており,記憶·学習をはじめとした脳の高次機能発現に必須であることが判明してきた.私達は,神経堤由来の培養ウシ副腎髄質クロマフィン細胞を神経細胞のモデルとして,インスリン受容体とそのシグナル伝達分子の発現調節にかかわる細胞内外の因子を検索してきた.Protein kinase C-α(PKC-α)や,glycogen synthase kinase-3β(GSK-3β)等のタンパク質リン酸化酵素や,細胞内Ca2+濃度の変化が,インスリン受容体遺伝子の転写·翻訳·細胞内輸送を調節する因子であった.また,インスリン受容体が成熟し,細胞膜に発現するためには,分子シャペロンであるheat shock protein-90 kDa(Hsp90)を介したインスリン受容体前駆体タンパク質のホモ二量体化や,イムノフィリンのもつペプチジルプロリル·シス-トランス·イソメラーゼ活性によるタンパク質の折りたたみが必要であった.インスリン受容体やその下流のシグナル伝達分子の発現調節機構の解明は,インスリン受容体シグナル異常が関与する神経変性疾患などの病態解明につながり,発現調節機構に作用する薬物が新たな神経疾患の予防·治療薬となる可能性がある.
シリーズ:ポストゲノムシークエンス時代の薬理学
  • 大木元 明義, 檜垣 實男
    2005 年 125 巻 3 号 p. 148-152
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    1990年に開始されたヒトゲノムプロジェクトの結果,2004年10月にはヒトゲノムの99%を解読した信頼性(エラー率100,000塩基に1つ)の高い遺伝子配列が報告され,今まさにポストゲノムシークエンス時代に突入している.ゲノム研究は単一遺伝子疾患の原因遺伝子の解明から生活習慣病をはじめとする多因子病の疾患感受性遺伝子や薬物応答性に関する遺伝子の網羅的(ゲノムワイド)な遺伝子多型解析へ移りつつある.SNP(Single Nucleotide Polymorphism,一塩基遺伝子多型)はゲノム内に300-1500塩基に1個程度(約300万個)存在する.SNPは人種,個人により,遺伝子頻度が異なる場合が多いため,人種差,個人差を検出するための有効な遺伝子マーカーである.また,SNPそのものが疾病への感受性や薬物への反応性またその副作用の出現などに影響を与える場合もある.結果を信号化することができるため情報処理が容易であること,高速で大量にSNPをタイピングするための技術が実現していることから,網羅的遺伝子解析を行うにあたり便利である.この総説では,各種遺伝子多型と網羅的遺伝子多型解析に適したタイピング法,統計学的解析法とその限界,遺伝子解析研究の倫理的問題点について解説する.
  • 辻本 豪三
    2005 年 125 巻 3 号 p. 153-157
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    ポストゲノムの創薬ターゲット探索やターゲットバリデーションに役立つ技術としてDNAマイクロアレイ技術は注目されている.たとえば,疾患組織と正常組織の遺伝子発現プロファイルを網羅的に比較することが可能になり,疾患組織で特異的に発現している遺伝子や逆に発現が抑制されている遺伝子など,疾患関連遺伝子として創薬標的分子を探索する際に重要な情報になる.そのようなサーチ研究用ツールを有効に用いて薬理学研究を促進するためにはバイオインフォマティクスが必要である.
  • 根本 航, 藤 博幸
    2005 年 125 巻 3 号 p. 159-164
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/04/26
    ジャーナル フリー
    分子生命科学におけるバイオインフォマティクスの重要な役割の一つとして,仮説構築(予測)をあげることができる.正確な予測は,研究の迅速化とコストダウンをもたらす.本稿では,バイオインフォマティクスを利用した様々なタンパク質の機能予測について紹介する.タンパク質の機能の解析にあたっては,生化学的機能と生物学的機能を区別する必要がある.生化学的機能とは,酵素活性やリガンド結合能のようなタンパク質自体の属性である.そのため,生化学的機能はタンパク質のアミノ酸配列や立体構造からある程度推測することができる.一方,生物学的機能は高次の生命現象への関与を意味しており,そのような機能は1個のタンパク質ではなく,複数のタンパク質よりなるネットワークによって担われている.そのため,生物学的機能を解析するためには,タンパク質間相互作用の予測が重要な意味を持つ.本稿では,Gタンパク質共役受容体(GPCR)を例にとり,近年行われている機能解析について解説する.生化学的機能の予測については,分子系統樹を利用したリガンド予測を中心に説明する.生物学的機能解析の予測については,GPCRの複合体形成に関する解析を紹介する.我々はアミノ酸配列と立体構造を利用したGPCRの会合面(インターフェイス)の新たな予測法を開発した.この方法を中心に,GPCRのインターフェイス予測について説明する.
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