日本薬理学雑誌
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特集:薬理学における痛み研究の新しい潮流
神経ペプチドと痛み
井上 敦子仲田 義啓
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2006 年 127 巻 3 号 p. 137-140

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抄録
サブスタンスPを代表とする神経ペプチドは,刺激に応じて一次知覚神経から遊離され,脊髄後角において二次神経に痛み情報を伝達すると同時に,末梢組織で遊離された神経ペプチドは,免疫担当細胞,肥満細胞,血管平滑筋細胞に作用して神経因性炎症反応を引き起こす.我々は,一次知覚神経の活性化の解析モデルとして脊髄後根神経節初代培養細胞(培養DRG細胞)を用い,サブスタンスPの動態(生合成と遊離)について炎症性メディエータの影響とその作用メカニズムを検討している.炎症反応により組織局所や神経支配する一次知覚神経のサブスタンスP含量は増加する.培養DRG細胞を炎症性サイトカインであるインターロイキン1βで処置すると,数時間でサブスタンスPが遊離され,数日間の処置で細胞内サブスタンP前駆体PPT mRNAレベルの増加が観察された.また,発痛物質でもあるブラジキニンで培養DRG細胞を前処置すると,カプサイシンによるカルシウムの取り込みを増加したことから,一次知覚神経の興奮性を促進することがわかった.また,数時間のブラジキニン処置でカプサイシンによるサブスタンスP遊離が増強された.インターロイキン1βとブラジキニンの長時間処置によるサブスタンスP遊離に及ぼす影響はシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害薬で抑制され,インターロイキン1βとブラジキニンにより培養DRG細胞においてCOX-2の発現誘導が観察された.サイトカインなどの炎症性メディエータは,種々神経ペプチドの動態に影響を及ぼすことによって炎症反応,炎症性痛覚過敏を引き起こすと考えられる.その作用機序および細胞内伝達経路を解明することは病的痛覚過敏の制御に極めて重要であると思われる.
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© 2006 公益社団法人 日本薬理学会
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