日本薬理学雑誌
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特集:ストレスと生活
遺伝子で応える細胞のストレス応答
野口 範子
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2007 年 129 巻 2 号 p. 85-88

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抄録
われわれヒトを含め地球上の生物は,常に活性酸素やフリーラジカルによる酸化傷害の危険にさらされてきた.それにもかかわらず,発展することができたのは,酸化ストレスに対する防御機構を獲得したためと考えられる.防御機構の構築およびその維持は,細胞の遺伝子発現の調節によってなされてきた部分が大きい.生物が酸素を使って生命を維持するうえで,活性酸素やフリーラジカルの生成は避けることができない.これらの活性種は,細胞を構成する脂質,タンパク質,核酸などを酸化し,様々な酸化生成物を与える.酸化生成物による遺伝子誘導を解析することによって,これまで細胞毒性の強い物質として報告されていたものが,様々な細胞防御遺伝子の発現誘導能をもつことがわかってきた.また,放射線は生体に傷害を与えることが知られているが,高線量で暴露する前に低線量で処理しておくと,傷害が抑制されることが報告されている.これはホルミシス現象と呼ばれるものであるが,同じことが脂質酸化物による細胞傷害の防御能亢進に適用できることが証明されてきた.つまり,低濃度の細胞毒性の強い脂質酸化生成物で細胞を前処理しておくと,それに続いて高濃度でひきおこされる細胞傷害を軽減することができる.そのメカニズムは脂質酸化生成物の種類によって異なるが,一部は転写因子Nrf2で制御される細胞防御酵素の発現誘導によることが証明されている.また,詳細は明らかではないが,Nrf2非依存的に細胞防御系が亢進するメカニズムが存在することも示唆されている.
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© 2007 公益社団法人 日本薬理学会
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