日本薬理学雑誌
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新薬紹介総説
アルチバ®(レミフェンタニル塩酸塩)静注用2 mg・5 mgの薬理学的特徴および臨床試験成績
野村 俊治新井 勉竹内 聡士桝井 章憲若松 昭秀原田 寧
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2007 年 130 巻 4 号 p. 321-329

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抄録

レミフェンタニルは,バランス麻酔用の全身麻酔薬に求められる迅速な鎮痛作用の発現ならびに消失を実現するため,非特異的エステラーゼによる代謝を受け易い構造を有するオピオイドとして英国Glaxo社(現英国GlaxoSmithKline社)により合成され,本邦では,その塩酸塩がアルチバィとして2006年12月に承認された.レミフェンタニルのμ-オピオイド受容体に対する親和性は,δ-またはκ-オピオイド受容体のそれぞれ約25または2300倍であった.摘出モルモット回腸の経壁電気刺激誘発収縮に対するレミフェンタニルの抑制作用は,ナロキソンにより競合的に拮抗されたが,κ-またはδ-オピオイド受容体選択的拮抗薬で影響を受けなかった.レミフェンタニルの3 μg/kg以上をラットに単回静脈内投与すると,投与直後から鎮痛作用(tail-flick法)が発現し,30 μg/kg以上で全例に最大潜時が認められた.レミフェンタニルによる最大潜時持続時間(全例が最大潜時を示している時間)および作用持続時間(潜時が延長してから投与前値に戻るまでの時間)は用量依存的に延長したが,最大潜時に達した後の作用持続時間はフェンタニルと比較して明らかに短く,作用消失が早かった.レミフェンタニルを持続静脈内投与中は最大潜時を維持し,投与終了後の鎮痛作用の持続時間は数分間であり,フェンタニルと比較して作用消失が極めて早かった.鎮痛作用には蓄積性が認められず,回復が迅速であることは反復投与後にも確認されている.ウサギの侵害刺激による循環動態変動に対する,レミフェンタニルと静脈麻酔薬プロポフォールまたは吸入麻酔薬セボフルランとの併用による抑制作用は少なくとも相加的であった.本邦で実施した臨床試験のうち,プロポフォールの併用(4.5 mg/kg/時)による全静脈麻酔法を用いる手術患者を対象に実施した無作為化平行用量反応試験では,低用量群(1.0 μg/kg単回静脈内投与+0.5 μg/kg/分,挿管5分後より0.25 μg/kg/分)および高用量群(1.0 μg/kg単回静脈内投与+1.0 μg/kg/分,挿管5分後より0.5 μg/kg/分)の何れにおいても約80%以上の症例で気管挿管時および皮膚切開時の外科的侵襲による反応がみられなかった.また,気管挿管後5分以内および皮膚切開時の収縮期血圧ならびに心拍数は安定しており,麻酔からの覚醒は速やかであった.安全性解析対象の67.9%に副作用が認められ,主なものは血圧低下34例(40.5%),悪心19例(22.6%),徐脈17例(20.2%),嘔吐10例(11.9%)であった.また,セボフルランを併用(呼気終末濃度約1.0%)した全身麻酔下での手術患者を対象に実施した一般臨床試験では,麻酔維持期には約99%の症例で皮膚切開時の刺激に対する反応がみられず,循環動態は安定しており,麻酔終了後には速やかな覚醒が得られ,遅発性の呼吸抑制も認められなかった.以上より,レミフェンタニルは,選択的なμ-オピオイド受容体作動薬であり,鎮痛モデルにおいて速やかに強力な鎮痛作用を発現するが,その作用発現時間が極めて短く蓄積性が低いことが示された.これらの特徴は,他の麻酔薬との併用臨床試験において,手術中の侵襲刺激に対する十分な抑制と迅速な回復などにより確認されており,バランス麻酔においてレミフェンタニルを併用することは有用であることが示された.

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© 2007 公益社団法人 日本薬理学会
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