日本薬理学雑誌
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実験技術
薬物動態シミュレーションモデルを用いた医学部薬理学実習
原 一恵松岡 正明
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2010 年 136 巻 3 号 p. 155-159

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抄録

薬物動態学の教育は医学部ではコアカリキュラムで総論を扱うにとどまっていることが多い.しかし,薬物の個別治療に欠かせない概念であり,確実に学生に理解させる必要があるため,東京医科大学薬理学講座では,平成12年度より薬理学の学生実習において血中濃度シミュレーションを取り入れ,薬物動態学における血中濃度変化という現象を視覚的に理解させることを行ってきた.実際の実習では,<課題1>として投与経路による血中濃度曲線の違いを理解させた後,投与量の変動による血中濃度の変化,治療域が広い場合と狭い場合の比較,パラメータの変動が血中濃度に及ぼす影響を観察させ,まとめとして投与経路を組み合わせて行うテオフィリン療法をシミュレーションさせる.<課題2>では不規則な投与が血中濃度に与える影響をシミュレーションして考えさせた後,繰り返し投与における投与間隔と投与量の関係を調べさせる.<課題3>では腎機能障害者における投与量・投与間隔の変更方法について学習させる.アプリケーション操作は基本的に投与量等の数値を入力してシミュレーション実行ボタンを押すだけであり,1人1台のPCを使用して納得いくまで繰り返させることが出来る.コンピュータ入力ミスによる医療事故をも模擬的に招く様な設定をしておくことで,慎重さの重要性をも学習させる工夫や学生を飽きさせないよう血中濃度に応じた患者からの各種メッセージを表示させるような工夫を施すことが可能である.本実習は視覚を通じて薬物動態学を理解させるためきわめて効果的であり,しかも実習終了時には学生はPCの中の患者に対して自分が医師として行った治療の過程と結果を説明できるようになるという効果もある.このようにシミュレーション実習は実験動物や生身の人体を全く用いずに行える代替法であるだけでなく,薬理学講義で得た知識を臨床に進んだ時にも活かすための効率的な手段の一つである.

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© 2010 公益社団法人 日本薬理学会
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