日本薬理学雑誌
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実験技術
光照射分子不活性化法(CALI/FALI法)
竹居 光太郎
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2012 年 140 巻 5 号 p. 226-230

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抄録

ポストゲノム時代の今日,高次生命現象を担うタンパク質機能解析において特定分子の欠損あるいは不活性化させる技術が最も有効な研究手段であると考えられる.その場合,分子機能が実際に発揮される時間と場所で解析を行うことが非常に重要で,時空間的分解能を有するタンパク質機能阻害技術が必須となる.光照射分子不活性化法は特定分子の時空間的な不活性化を実現させ得る研究方法として登場し,細胞や生体の局所領域や特定の時間軸上での分子機能解析に功を奏するアプローチを提供する.光照射分子不活性化法の原理は,抗原抗体反応による特異的な結合を用いて,特別な色素を標識した抗体によって標的分子を特定化し,光照射によって色素から生じるラジカルの強い酸化反応で標的分子を機能的に不活性化させ得るというものである.光を照射した時間と空間で特定分子の急性的な機能阻害が実現するので,細胞や生体の局所領域や発生段階の特定時期などの限局した時間帯でのターゲティングが可能となる.発生や再生の過程で見られる神経突起先端に在る成長円錐といった細胞の局所領域における分子機能解析で数多くの適用実験例がある.近年,この方法に適する様々な光増感物質が開発されたり,GFPなどの蛍光タンパク質を介した方法が開発されたりして,光照射分子不活性化法の改変法が次々と発表された.さらに,この技術の適用の仕方も多様化し,たとえば,分子標的薬のターゲット分子の網羅的解析や発生現象を担う機能分子のスクリーニング法などにも応用されている.光照射装置として長年レーザーが使用されてきたが,特殊なセットアップを不要にした技術の簡便化・安価が進み,簡単な光照明装置や市販の顕微鏡装置だけで実現するようになった.技術原理が発表されてから四半世紀が経ち,決して新しいとは言えなくなった技術であるが,誰もが使える簡単な実験技術へと生まれ変わろうとしており,この技術の新時代が到来している.

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© 2012 公益社団法人 日本薬理学会
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