日本薬理学雑誌
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140 巻, 5 号
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特集 慢性疼痛治療薬の研究開発戦略
  • 亀井 達也, 宮内 政徳, 小山田 義博, 志水 勇夫
    2012 年 140 巻 5 号 p. 196-200
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    神経障害性疼痛はアンメットニーズが非常に高い難治性の慢性疼痛疾患である.いくつかの治療薬が臨床で利用されているが,その鎮痛効果は満足いくものではなく,さらにいずれの薬剤についても中枢性や心循環器系の副作用リスクが存在している.従って,このような副作用を回避し治療効果を高めた鎮痛薬を創製するため,痛みを伝える神経で選択的に機能している新規治療標的が探索されてきた.近年,有望な創薬標的として温度感受性のTRPチャネルが注目を集め,創薬研究が盛んに行われている.これらのセンサーチャネルは感覚神経終末や皮膚角質細胞等の疼痛発生部位を含む痛覚伝導路に広く分布し,病態時においては発現量の増加や機能亢進が認められ,熱・冷痛覚過敏,機械アロディニアや自発痛といった神経障害性疼痛の特徴的な症状に密接に関与することが報告されてきた.本稿では,ヒトでの検証段階に進んでいるTRPV1,TRPA1,TRPV3にフォーカスし,thermo-TRPチャネルリガンドの研究開発状況をアンタゴニスト/アゴニストに分けて紹介する.
  • 渡邉 修造
    2012 年 140 巻 5 号 p. 201-205
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    電位依存性ナトリウムチャネルは,神経細胞の興奮や伝達を担っており,痛みの神経伝達に深く関与することが知られている.現在までに9種類(Nav1.1~Nav1.9)の電位依存性ナトリウムチャネルが報告されているが,その中でNav1.7,Nav1.3,Nav1.8の3つのサブタイプは神経障害性疼痛との関連性を示唆する報告が多い.現在,臨床ではメキシレチン,リドカインなどの電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬が処方されている.これら既存の治療薬は,サブタイプ非選択的な薬剤であることからNav1.7,Nav1.3,Nav1.8のいずれにも作用することで鎮痛効果を示すと考えられる.また,同時に心臓に発現するNav1.5や脳に高発現するNav1.1,Nav1.2に対しても作用することから,薬効を示す用量において徐脈や中枢性の副作用が認められ,十分な治療効果が得られていない.そこで本稿では,サブタイプ選択的な電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬を探索するために,本研究所で実施している二つの評価方法について紹介する.一つは,浜松ホトニクス社と共同開発している新しい装置を用いた評価方法であり,本装置により電位依存性ナトリウムチャネルの活性を正確に,また,効率よく測定することが可能である.もう一つは,痛みの動物モデルにおける電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬の有効性を予測するために,本研究所が開発したin vitro評価系について紹介する.これら二つの評価方法は,サブタイプ選択的な電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬を効率的に見出すための有用な方法であると考えられる.これらの方法により,神経障害性疼痛に苦しむ多くの患者のために,少しでも早く新しい治療薬が見出されることが期待される.
  • 村本 賢三
    2012 年 140 巻 5 号 p. 206-210
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    神経系と免疫系の相互作用は中枢性の炎症性疾患をはじめ,これまで多く報告されている.我々は,これまで炎症や疼痛メカニズムに関与していると考えられていたprostaglandin E2(PGE2)がその受容体の一つであるeicosapentaenoic receptor 4(EP4)を介して,免疫系の中でもTh1やTh17といったCD4陽性のTリンパ球機能を調節していることを発見した.新規に合成されたEP4受容体拮抗薬を用いたin vitroならびにin vivo試験は,鎮痛作用だけではなく,これら免疫系への作用によりTh1の分化抑制,樹状細胞からのIL-23の産生抑制作用,Th17の分化や増殖維持などを抑制等の作用を示した.またそれとは逆に,リンパ球や単球などに発現しているケモカイン受容体CX3CR1とそのリガンドであるフラクタルカインCX3CL1経路が,自己免疫性肝炎,関節炎,炎症性腸疾患,脱髄性神経変性疾患といった免疫モデルだけではなく,疼痛にも関与していることを見出した.CX3CR1はマイクログリアなどにも発現しており,活性化した神経細胞からフラクタルカインが産生され,それがマイクログリアなどを活性化することにより,疼痛のメカニズムとして働くと考えている.このように,一つの分子が神経系ならびに免疫系の両者に影響しており,その相互作用の解析は今後の病態,特に神経変性疾患の解明に意義があると考える.このメカニズムの解明により,鎮痛作用だけでなく病態治療作用も併せ持つ新たな創薬アプローチが可能になると考えている.
  • 永倉 透記, 石川 剛, 矢次 さちこ, 吉見 英治, 竹下 暢昭, 青木 俊明, 清水 保明, 伊東 洋行
    2012 年 140 巻 5 号 p. 211-215
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    疼痛モデル動物において検出された鎮痛効果が疼痛患者において再現される確率は十分に高いとは言えないことから,疼痛モデル動物における評価方法を改良し,臨床効果予見性を高めることは鎮痛薬の研究戦略において極めて重要な課題である.従来,疼痛モデル動物では,機械,熱などの外的刺激を人為的に動物に与えた時に生じる肢の回避動作などの反射反応,すなわち刺激誘発痛を指標とする評価方法が広く用いられている.一方,臨床では,外的刺激のない状態での疼痛強度,すなわち自発痛をvisual analogue scale(VAS)等の疼痛スコアを用いて評価する方法が一般的に用いられている.この前臨床/臨床評価指標の不一致を解決するためには,疼痛モデル動物において自発痛を指標とした評価を導入する必要がある.また,刺激誘発痛指標を用いた評価は,特定実験者の手技,行動観察への依存による実験者間データ変動リスクを内包している.このような観点から疼痛行動指標の機械による自動測定化により変動リスクを低減することが重要である.本稿では,課題解決の方策としての新しい鎮痛薬評価系,すなわち疼痛モデル動物における自発痛関連行動の自動測定法について概説する.特に,神経障害性疼痛モデルラットに生じる自発痛様肢異常動作の電磁誘導を利用した自動測定系,およびモノヨード酢酸誘発変形性関節症モデルラットに生じる姿勢の左右不均衡,あるいは立ち上がり行動減少を自発痛指標とする評価系に焦点を当てる.当研究所では,臨床の自発痛を反映する動物の自発痛関連行動の検出,およびその機械による自動測定法の開発に継続的に取り組み,その鎮痛薬の創薬研究における活用を推進している.鎮痛薬の新しい評価方法である自発痛測定法が,疼痛モデル動物における鎮痛薬候補評価の臨床効果予見性向上に貢献することを期待している.
総説
  • 最上(重本) 由香里, 佐藤 薫
    2012 年 140 巻 5 号 p. 216-220
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    正常な脳内で静止型として存在するミクログリアは,病態時に活性型となり細胞特性を激変させ,病変部に集積,増殖し,損傷した神経細胞を貪食して排除する一方,生理活性物質を産生放出して神経細胞の修復を行っている.これまでミクログリア研究は,この病態時の活性型ミクログリアが主な研究対象として進められてきた.しかし,近年の研究により,脳内マクロファージと見なされてきたミクログリアがモノサイトやマクロファージとは起源の異なる細胞であり,中枢神経系独自の性質を有する細胞である可能性が高まってきた.そして,正常脳の静止型ミクログリアが活性型の準備段階ではなく,脳内環境の監視,神経回路網再構成,神経活動の制御など,中枢神経系の生理機能維持に積極的に関与していることが明らかになってきた.我々は特に,神経発達におけるミクログリアの重要性に関する新知見を得ている.このように,ミクログリアの多彩な生理的機能が日々明らかとなっている.
  • 山田 弘
    2012 年 140 巻 5 号 p. 221-225
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    “トキシコゲノミクス”は,当初,主に遺伝子発現プロファイル技術を応用した毒性学研究を意味していたが,最近ではゲノム全体の構造や機能等にも着目し,それらの解析を実現するゲノム技術も応用した毒性学研究として,以前より幅広く捉えられるようになってきている.この場合,従来の遺伝子発現プロファイルに基づく毒性学研究は,トキシコトランスクリプトミクスと呼ばれることになる.厚生労働行政における国民医療において,医薬品の副作用回避は重要な課題の一つとなっている.一方で,依然として臨床試験中あるいは上市後に予期せぬ副作用が発生し,開発を断念あるいは市場から撤退する医薬品が後を絶たない.肝障害を例とした場合,糖尿病治療薬トリグリタゾンやワルファリンに代わる抗凝固薬として期待されたキシメラガトンの販売中止が記憶に新しい.医薬品の重篤な副作用発現は国民の保健と福祉を脅かすとともに,製薬企業の経営に悪影響を与える要因ともなりうる.従って,医薬品のヒトでの安全性を予測および診断する新しい測定法,技術およびバイオマーカー等の開発が急務となっており,それによりトキシコゲノミクス研究の発展に対する期待も大きくなっている.本稿では,産官連携プロジェクトとして進められた第1期および第2期トキシコゲノミクスプロジェクトの研究成果をトキシコゲノミクス研究の進展を示す事例として紹介するとともに,当該研究領域の将来について考察する.
実験技術
  • 竹居 光太郎
    2012 年 140 巻 5 号 p. 226-230
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    ポストゲノム時代の今日,高次生命現象を担うタンパク質機能解析において特定分子の欠損あるいは不活性化させる技術が最も有効な研究手段であると考えられる.その場合,分子機能が実際に発揮される時間と場所で解析を行うことが非常に重要で,時空間的分解能を有するタンパク質機能阻害技術が必須となる.光照射分子不活性化法は特定分子の時空間的な不活性化を実現させ得る研究方法として登場し,細胞や生体の局所領域や特定の時間軸上での分子機能解析に功を奏するアプローチを提供する.光照射分子不活性化法の原理は,抗原抗体反応による特異的な結合を用いて,特別な色素を標識した抗体によって標的分子を特定化し,光照射によって色素から生じるラジカルの強い酸化反応で標的分子を機能的に不活性化させ得るというものである.光を照射した時間と空間で特定分子の急性的な機能阻害が実現するので,細胞や生体の局所領域や発生段階の特定時期などの限局した時間帯でのターゲティングが可能となる.発生や再生の過程で見られる神経突起先端に在る成長円錐といった細胞の局所領域における分子機能解析で数多くの適用実験例がある.近年,この方法に適する様々な光増感物質が開発されたり,GFPなどの蛍光タンパク質を介した方法が開発されたりして,光照射分子不活性化法の改変法が次々と発表された.さらに,この技術の適用の仕方も多様化し,たとえば,分子標的薬のターゲット分子の網羅的解析や発生現象を担う機能分子のスクリーニング法などにも応用されている.光照射装置として長年レーザーが使用されてきたが,特殊なセットアップを不要にした技術の簡便化・安価が進み,簡単な光照明装置や市販の顕微鏡装置だけで実現するようになった.技術原理が発表されてから四半世紀が経ち,決して新しいとは言えなくなった技術であるが,誰もが使える簡単な実験技術へと生まれ変わろうとしており,この技術の新時代が到来している.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(23)
  • 丸井 裕子, 浅田 和広
    2012 年 140 巻 5 号 p. 231-234
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    2013年4月に,リスク管理制度が本邦でも導入される.医薬品のリスクを明らかにし,これらに対応してどのように試験・調査等を実施して安全性を監視するのか,どのようなリスク最小化策が必要なのかを医薬品リスク管理計画書案としてまとめ,承認審査の過程で当局と企業で協議するという制度である.当局への報告時期をあらかじめ設定し,市販後も引き続き満足できるかどうかのベネフィット・リスクバランスを評価する.販売開始前から医薬品安全性監視活動並びにリスク最小化活動の準備が可能となるだけでなく,評価結果を反映した安全対策の速やかな実施も可能となる.さらに市販後のリスクマネジメントが一つの文書に整理されるため,医療従事者,企業,規制当局のみならず,患者さん等との情報共有が可能となる.日本薬学会では医薬品をより使いやすく有効性及び安全性の高いものに育てるために,患者背景,使用方法,効果及び副作用等を調査・評価し,有効で安全な使い方に関する情報を増やしていく様々な取り組み(制度,活動)を育薬と定義している.リスクマネジメントとはまさに育薬である.有効性だけでなくベネフィット・リスクバランスに視点を置いた情報を,医療従事者だけでなく患者さんへ提供していくことの重要性は増していくと思われる.
新薬紹介総説
  • 高橋 ゆかり, 木村 幸恵, 岡野 昌彦
    2012 年 140 巻 5 号 p. 235-243
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/09
    ジャーナル フリー
    ビダーザ®注射用100 mg(有効成分:アザシチジン)は,「骨髄異形成症候群」の効能・効果,「75 mg/m2(体表面積)を1日1回7日間皮下投与または10分かけて点滴静注し,3週間休薬する.これを1サイクルとし,投与を繰り返す.なお,患者の状態により適宜減量する.」を用法・用量として2011年1月に承認された.アザシチジンは,シチジンと同じ核酸輸送系で速やかに細胞内に取り込まれた後,RNAおよびDNAに組み込まれ,殺細胞作用ならびにDNAメチル化阻害作用により骨髄の異常造血細胞に対して抗腫瘍効果を発揮すると考えられている.一方,臨床においては,骨髄異形成症候群(MDS)患者に対する海外臨床試験として,薬物動態試験(AZA-002試験),第II相試験(CALGB8421試験,CALGB8921試験),第III相試験(CALGB9221試験,AZA-001試験)が実施されている.特に高リスクのMDS患者を対象としたAZA-001試験において,アザシチジン投与群の生存期間(中央値)は24.5ヵ月であり,通常治療群の15.0ヵ月と比較して有意に延長させた.また,アザシチジン投与群の2年生存率(50.8%)は通常治療群(26.2%)の約2倍であった.国内で実施した臨床第I/II相試験において,日本人被験者のAUC0-∞から算出した皮下投与時のバイオアベイラビリティは91.1%であり,海外データと同様の結果が得られた.有効性においては,血液学的改善は54.9%,血液学的寛解は28.3%に認められた.また,ベースライン時に赤血球輸血依存であった被験者のうち,治験期間中に輸血非依存となった被験者の割合は全体で55.6%,低リスク患者では66.7%であった.投与経路別の比較では,皮下投与と点滴静注で同等の成績が得られ,アザシチジンの有効性に投与経路による差異はなかった.安全性について,好中球減少症や血小板減少症などの血液障害に関する有害事象が最も多く,そのほかに便秘,下痢などの胃腸障害,注射部位紅斑,倦怠感などが認められた.いずれも予想される事象であり,対症療法やアザシチジンの休薬,減量,中止等により管理可能であった.以上の事から,ビダーザ®注射用100 mgは,MDSの高リスク患者においては生存期間の延長,低リスク患者においては輸血依存からの脱却を目的として,治療上の新たな選択肢の一つになることが期待される.
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