日本薬理学雑誌
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特集 がん治療薬の研究開発戦略
がん骨転移におけるRANKL阻害
和田 悌司
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2013 年 141 巻 1 号 p. 22-26

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抄録

骨転移は乳がん,前立腺がん,甲状腺がん,腎がん,肺がんをはじめとする種々のがん患者において高頻度で認められ,その患者数は増加する傾向にあると言われている.骨転移はしばしば重大な骨関連事象(病的骨折,脊髄圧迫,骨への放射線治療,または骨に対する外科的処置)を引き起こし,患者のQuality of Lifeを著しく低下させることから,骨関連事象の発現を抑制することが望まれている.骨病変とその結果として生じる骨関連事象には,骨内に進入したがん細胞とそれを取り巻く骨環境が関与している.骨内でがん細胞は骨芽細胞等を介してRANKL(receptor activator for nuclear factor-κB ligand:RANKリガンド)の発現上昇を引き起こす.RANKLは破骨細胞の形成,機能,および生存を司る必須の因子であり,破骨細胞および破骨細胞前駆細胞に発現するRANKL受容体(RANK)に結合し,破骨細胞による骨吸収を促進することで骨破壊を誘導する.骨吸収の際にはがん細胞の増殖や生存を促す因子が放出され,がん細胞のさらなる自己増強(悪循環)に陥る.非臨床試験において,この「悪循環」に重要な役割を果たす分子のひとつであるRANKLを阻害することで,骨病変の進行抑制が認められることが乳がん,前立腺がん,および肺がんのマウスモデル等において確認されている.近年,ヒトRANKLに特異的かつ高い親和性を示すヒト型抗RANKLモノクローナル抗体,デノスマブによるRANKL阻害への期待が寄せられていることから,本稿では,デノスマブの作用機序およびデノスマブの標的であるRANKLに関して基礎研究データを概説するとともに,RANKL/RANK経路に関する最近の研究を紹介する.

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