日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
141 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集 がん治療薬の研究開発戦略
  • 仙波 太郎
    2013 年 141 巻 1 号 p. 4-8
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    VEGF(血管内皮増殖因子)抗体ベバシズマブが,がん化学療法薬との併用治療により転移性大腸がんに対して臨床有用性を示し,新たながん治療として承認された.また,VEGF受容体チロシンキナーゼ阻害薬(VEGFR-TKI)も臨床有用性が確認され,VEGFを中心とする血管新生阻害薬の臨床治療における重要性が拡大している.VEGFR-TKIは,単剤で抗腫瘍効果を示す一方で,現時点でがん治療の主軸である併用療法において適応を取得した薬剤はない.低分子血管新生阻害薬のための併用治療法の確立が今後のがん治療のひとつの課題と考える.併用治療確立のためには新たな研究仮説や併用治療に長けたVEGFR-TKI以外の血管新生阻害薬の創出も必要と考えられる.E7820はVEGFシグナル阻害とは異なる作用機序を有する臨床開発中の血管新生阻害薬である.E7820は前臨床の種々の移植がんモデルにおいて,様々な化学療法剤との併用投与で効果を示すことが確認された.その作用機序は,腫瘍血管正常化の誘導によることが,腫瘍血管のイメージング手法DCE-MRIを用いた検討によって明らかになった.近年,バイオマーカーを用いた化学療法の早期効果判断が求められている.血管新生阻害薬の併用療法の確立には,腫瘍血管イメージングを応用した効果判別手法の進展など,今後の臨床での新たな展開に期待したい.
  • 曽我 史朗
    2013 年 141 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    天然物由来の生理活性物質(Geldanamycin,Radicicol)の生理活性メカニズムを,酵母やがん細胞を使ったバイオロジーを組み合わせて解析していくことによって,heat shock protein 90(Hsp90)が重要な抗がん薬標的であることが明らかにされてきた.Hsp90は,がんの増殖・生存に関わる多くの“クライアントタンパク質”の機能維持に必須であり,Hsp90阻害によってこれらクライアントタンパク質の機能をマルチに阻害することによって種々のがん細胞に対して抗腫瘍活性を示す.Hsp90阻害薬の臨床応用はGeldanamycin誘導体で先行して実施されてきたが,それらとは全く異なる骨格を持つ新規Hsp90阻害薬KW-2478を創製し臨床試験が進んでいる.本報ではHsp90が抗がん薬標的として発見されてきた経緯,新規Hsp90阻害薬KW-2478の研究開発,およびHsp90阻害薬開発の現状等について紹介する.
  • 石井 暢也
    2013 年 141 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    細胞増殖やアポトーシス抑制などに係わるmitogen activated protein kinase(MAPK)シグナル伝達経路の一つであるRAS-RAF-MEK-ERKシグナル伝達経路は,がん細胞において様々なメカニズムにより高頻度に活性化されることが知られており,以前より抗がん薬開発の標的分子として研究されてきた.これまでにいくつかのこのシグナル経路の阻害薬の臨床開発が試みられてきたが,いずれも明確な有効性を確認するには至らなかった.近年,いくつかのより選択性の高いATP拮抗型RAF阻害薬や非ATP拮抗型MEK阻害薬(アロステリック型MEK阻害薬)が創出されると同時に,活性型BRAF変異または一部の活性型RAS変異を有するメラノーマ等の腫瘍細胞がRAS-RAF-MEK-ERKシグナルに対する依存度が大きいことが見出されてきた.その結果,RAF阻害薬やMEK阻害薬が活性型BRAF変異または一部の活性型RAS変異を有するメラノーマに対して顕著な抗腫瘍効果を示すことが確認されている.現在,RAF阻害薬やMEK阻害薬の活性型BRAF変異や活性型RAS変異を有するメラノーマ以外の腫瘍に対する臨床効果が評価中であり,今後の適応拡大が期待される.さらに,腫瘍細胞内でRAS-RAF-MEK-ERKシグナル以外のシグナル伝達・機能を同時に抑制することによりさらに強い抗腫瘍効果を得るため,あるいは別のシグナルの活性化によりRAF阻害薬やMEK阻害薬に対して耐性となった腫瘍の増殖を抑制するために,種々の薬剤とRAF阻害薬あるいはMEK阻害薬との併用効果についても臨床効果が評価中である.このように,RAF阻害薬やMEK阻害薬などのMAPK経路阻害薬は今後のがん治療の中の大きな役割を担うと期待される.
  • 和田 悌司
    2013 年 141 巻 1 号 p. 22-26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    骨転移は乳がん,前立腺がん,甲状腺がん,腎がん,肺がんをはじめとする種々のがん患者において高頻度で認められ,その患者数は増加する傾向にあると言われている.骨転移はしばしば重大な骨関連事象(病的骨折,脊髄圧迫,骨への放射線治療,または骨に対する外科的処置)を引き起こし,患者のQuality of Lifeを著しく低下させることから,骨関連事象の発現を抑制することが望まれている.骨病変とその結果として生じる骨関連事象には,骨内に進入したがん細胞とそれを取り巻く骨環境が関与している.骨内でがん細胞は骨芽細胞等を介してRANKL(receptor activator for nuclear factor-κB ligand:RANKリガンド)の発現上昇を引き起こす.RANKLは破骨細胞の形成,機能,および生存を司る必須の因子であり,破骨細胞および破骨細胞前駆細胞に発現するRANKL受容体(RANK)に結合し,破骨細胞による骨吸収を促進することで骨破壊を誘導する.骨吸収の際にはがん細胞の増殖や生存を促す因子が放出され,がん細胞のさらなる自己増強(悪循環)に陥る.非臨床試験において,この「悪循環」に重要な役割を果たす分子のひとつであるRANKLを阻害することで,骨病変の進行抑制が認められることが乳がん,前立腺がん,および肺がんのマウスモデル等において確認されている.近年,ヒトRANKLに特異的かつ高い親和性を示すヒト型抗RANKLモノクローナル抗体,デノスマブによるRANKL阻害への期待が寄せられていることから,本稿では,デノスマブの作用機序およびデノスマブの標的であるRANKLに関して基礎研究データを概説するとともに,RANKL/RANK経路に関する最近の研究を紹介する.
総説
  • 柳川 芳毅, 久保 靖憲, 松本 真知子, 富樫 廣子
    2013 年 141 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    免疫系と神経系との間には相互調節機構が存在する.神経系による免疫系制御の1つとして,アドレナリン受容体を介した樹状細胞(抗原提示細胞)の機能調節があげられる.ノルアドレナリンやアドレナリンは,α2受容体を介して樹状細胞の抗原取り込みを促進し,β受容体を介してサイトカイン産生バランスを調節する.アドレナリンβ受容体を介したシグナルは,炎症性サイトカインの産生を抑制するが,アレルギー増悪因子であるインターロイキン-33の産生を上昇させる.このサイトカイン産生バランスの変化は,ストレス時における免疫力低下とアレルギー性疾患の増悪に関係していると推察される.一方,免疫系による神経系制御の1つとして,Toll様受容体(TLR)7を介した文脈的恐怖記憶の強化があげられる.この現象は,ウイルス感染時の状況を,好ましくない状況として記憶し,その状況を回避するための機構を反映しているのかもしれない.免疫系と神経系は情報伝達物質や受容体を共有し,それらの分子を介して互いに連携し,免疫反応と危険回避のための行動を併せた広い意味での生体防御において重要な役割を果たしていると考えられる.
実験技術
  • 諫田 泰成
    2013 年 141 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    ヒトiPS細胞は再生医療や創薬への応用が期待されている.再生医療に関してはヒトiPS細胞由来分化細胞の安全性の確保が重要であり,造腫瘍性の評価など克服すべき課題も多い.一方,創薬応用は,分化細胞をin vitroで利用するため安全面のハードルが低く,創薬プロセスの早い段階で医薬品候補化合物の安全性や有効性を確実にスクリーニングできれば創薬の効率化や向上につながることが期待される.我々は創薬応用に向けた検証を行い,最適なヒトiPS細胞株の選択,分化誘導法,分化細胞の特性や均質性,定量的な薬理反応の評価法などの様々な観点から規格化が必要であることを明らかにしている.これらの問題点の多くは再生医療応用と異なっており,創薬応用独自の戦略が必要である.本稿では,心筋細胞を例に挙げて分化誘導法および分化細胞の特性に関する知見を紹介し,将来的に創薬応用の実用化に向けて整備すべき課題について考察したい.
新薬紹介総説
  • 新井 裕幸, 深澤 宣明, 上田 文枝
    2013 年 141 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    パゾパニブ塩酸塩(ヴォトリエント®錠,以下,パゾパニブ)は主に血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)-1,-2,-3,血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)-α,-βおよび幹細胞因子受容体(c-Kit)に対して阻害作用を示すマルチキナーゼ阻害薬であり,低分子の経口投与可能な化合物である.マウスおよびウサギにおける血管新生モデルを用いた非臨床試験において,パゾパニブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の併用による血管新生を阻害した.また,SW-872ヒト脂肪肉腫細胞株およびSYO-1ヒト滑膜肉腫細胞株を用いたマウス異種移植モデルにおいて,腫瘍増殖を抑制した.進行性悪性軟部腫瘍患者に対する臨床試験では,日本を含む国際共同第III相臨床試験がパゾパニブ単独療法の有効性および安全性についてプラセボ対照により評価することを目的として実施された.その結果,無増悪生存期間(PFS)の中央値がパゾパニブ群で4.6ヵ月,プラセボ群で1.6ヵ月(ハザード比0.31,P<0.0001)と,パゾパニブ群ではプラセボ群と比較して統計学的に有意なPFSの延長が示された.また主な有害事象は,疲労(パゾパニブ群65% vs.プラセボ群49%:以下同様),下痢(58% vs. 16%),悪心(54% vs. 28%),体重減少(48% vs. 20%),高血圧(41% vs. 7%),食欲減退(40% vs. 20%)であった.パゾパニブは本邦においてはこれらの非臨床試験および臨床試験成績に基づき,悪性軟部腫瘍の治療薬として2012年9月に承認された.
  • 山田 浩司, 宮内 紀明, 神田 知之
    2013 年 141 巻 1 号 p. 44-51
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/01/10
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病(PD)はアルツハイマー病に次いで患者数が多い慢性進行性の神経変性疾患である.レボドパ製剤はPDの運動機能障害に対して最も強力な改善効果を示すが,長期間の使用により運動症状の日内変動が大きくなり,薬効持続時間の短縮や突発的かつ予測困難な薬効減弱等のオフ症状が増加する.オフ症状の発現は患者のQOLを著しく低下させることから適切な対処が必要であるが,進行期のPD患者では,他のPD治療薬の追加・併用やレボドパの用量・用法の最適化の後もオフ症状が残存することがある.この残存したオフ症状に対しては,症状が発現した時に即効的に症状を改善するレスキュー療法が有用と考えられる.アポモルヒネはドパミンD1およびD2受容体サブファミリーに対して幅広く作動活性を有しており,PD患者の線条体においてドパミン受容体を介して間接経路出力および直接経路出力の両方を調節することにより,抗PD作用を示すと考えられる.霊長類の病態モデル動物および進行期のPD患者において,皮下投与したアポモルヒネはレボドパと遜色ない強い薬効を示す.またアポモルヒネ製剤は,顕著な薬効,即効性および作用時間が比較的短いこと等から,既存のPD治療薬によりコントロールできないオフ症状に対するレスキュー治療薬として,欧米各国で長い臨床使用の実績がある.アポモルヒネの薬理作用として嘔吐中枢の刺激による悪心・嘔吐等の発現が知られているが,これらの副作用は制吐剤の適切な使用等により制御可能である.レスキュー用途には,患者が必要と感じた時に患者自らが決められた薬物量を安全かつ確実に投与できることが重要となる.そのため,本邦においては,アポモルヒネの皮下投与のための専用の電動式インジェクターが開発された.本剤は内服薬に反応しない重篤なオフ症状に対するアンメットニーズを充たす新しいタイプのPD治療薬であり,本邦においては2012年3月に「パーキンソン病におけるオフ症状の改善(レボドパ含有製剤の頻回投与及び他の抗パーキンソン病薬の増量等を行っても十分に効果が得られない場合)」を効能・効果として承認された.海外と同様に本邦においても,本剤が患者とその家族および介護者のQOLに貢献することが期待される.
キーワード解説
feedback
Top