造血幹細胞および造血幹細胞から分化する全ての系統の血球を含む骨髄血は,細胞分化のメカニズム解明に欠かせない生体試料である.同じ血球系統でも分化段階によって,発現する遺伝子は異なる.我々は,骨髄内で実際に起こっている好中球分化に伴う遺伝子発現変化(in vivo expression profile)を解析するため,好中球前駆細胞を6つの分化段階に分けて高純度で採取する方法を確立した.これは,(1)比重の異なる二層のPercollに骨髄血を重層して遠心し,未分化細胞を含む低比重群,分化した細胞を含む高比重群,中間比重群に分ける比重遠心法,(2)系統特異的細胞表面タンパク質に抗体を結合させ,他系統の細胞を除去する免疫磁気ビーズ法,(3)複数の分化抗原を異なる蛍光色素で標識した抗体で染色して分化段階を細かく定義し,cell sorterで各段階の細胞を得る細胞分取法の3ステップから成り,最も未分化な低比重のCD34陽性[F1],中間比重のCD11b陰性/CD16陰性[F2],CD11b陽性/CD16陰性[F3],CD11b陽性/CD16弱陽性[F4],高比重のCD11b陽性/CD16弱陽性[F5]と最も分化したCD11b陽性/CD16強陽性[F6]の6分画が得られた.これらを用いて,好中球分化を制御する転写因子CCAAT/enhancer binding protein(C/EBP)-εと,プロモーター解析と遺伝子改変動物の表現型からC/EBP-εの標的遺伝子と考えられてきたラクトフェリンのmRNAレベルを検討した.C/EBP-εの発現は,F4で最大となりその後漸減したが,ラクトフェリンはC/EBP-εに先んじてF3で最大となりF5で激減した.この結果は,分化を制御する転写因子と標的遺伝子の関係を,分化段階毎に分離した生体試料を用いて検証することの重要性を示唆する.