日本薬理学雑誌
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141 巻 , 2 号
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特集 がん化学療法に伴う神経障害性疼痛―最近の研究動向
  • 満間 綾子, 安藤 雄一
    2013 年 141 巻 2 号 p. 62-65
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    がん薬物療法における有害事象として,末梢神経障害を引き起こす薬剤が注目されている.大腸がんのキードラッグであるオキサリプラチン(L-OHP)による末梢神経障害は,蓄積性で用量規定因子である.重篤な場合,治療の遂行が不可能となり,治療効果の障害となる.L-OHPによる末梢神経障害の発現のメカニズムは十分には解明されていない.そこで,シュウ酸(オキサレート)の代謝に関係する2つの酵素であるアラニングリオキシル酸アミノ転移酵素(alanine glyoxylate aminotransferase:AGXT),グリオキシル酸還元酵素-ヒドロキシピルビン酸塩還元酵素(glyoxylate reductase-hydroxypyruvate reductase:GRHPR)の他,解毒酵素であるグルタチオンS-転移酵素(gluthathione S-transferase π1:GSTP 1),および損傷を受けたDNAを修復する除去修復交差相補群1(excision repair cross-complementing gene 1:ERCC 1)の遺伝子多型について,mFOLFOX療法が施行された進行大腸がん患者を対象として末梢神経障害との関連を検討した.その結果,ERCC 1とGSTP 1の遺伝子多型は,L-OHPによる末梢神経障害の発現までの期間と強い関連がみられた.これらの遺伝子多型は末梢神経障害の予測因子であるとともに,その発症機序に関わっている可能性がある.遺伝子多型の頻度やその臨床的意義には人種差が存在する可能性があるため,海外からの研究結果を検証する必要がある.末梢神経障害の精度の高い予測因子が同定されれば,末梢神経障害をきたすL-OHPを避けて治療を行う,あるいは慎重にモニタリングを行うなど,個別化医療の進展に寄与するものと考えられる.
  • 江頭 伸昭, 川尻 雄大, 大石 了三
    2013 年 141 巻 2 号 p. 66-70
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    白金系抗がん薬であるオキサリプラチンは,大腸がん治療のキードラッグであるが,急性および慢性の末梢神経障害を高頻度で発現し,身体的苦痛から患者のquality of life(QOL)を著しく低下させるだけでなく,がん治療の変更や中止を余儀なくさせることから,臨床上大きな問題となっている.オキサリプラチンによる末梢神経障害に対しては,エビデンスレベルの高い確立された予防・治療法はなく,症状が強くなった場合には休薬,減量,他薬への切り替えが行われているのが現状である.著者らは,オキサリプラチンによる末梢神経障害動物モデルを作製し,急性末梢神経障害である冷感過敏の発現には,オキサレート基によるNa+チャネル/Ca2+チャネル/nuclear factor of activated T-cell(NFAT)経路を介したtransient receptor potential melastatin 8(TRPM8)の発現増加が,慢性末梢神経障害である機械的アロディニアの発現には,白金を含有する部分によるNMDA受容体NR2Bサブユニットを介したnitric oxide(NO)の合成酵素(NOS)やCa2+/calmodulin dependent protein kinase II(CaMKII)の活性化がそれぞれ関与していることを明らかにした.さらに,その発現機序に基づいた予防・治療候補薬をいくつか見出した.今後はさらに詳細な発現機序の解明を行い,その発現機序に基づいた取り組みによって確かなエビデンスを構築していくことが重要である.
  • 川股 知之, 木谷 友洋
    2013 年 141 巻 2 号 p. 71-75
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    化学療法による神経障害性痛は代表的な“治療によって引き起こされる痛み”である.化学療法に伴う痛みはQOLを低下させるだけでなく,場合によっては治療の中断を余儀なくされるため,予後に影響する重大な問題である.痛みを引き起こす薬物としてタキサン系製剤(パクリタキセル,ドセタキセル),ビンアルカロイド製剤(ビンクリスチン),プラチナ製剤(シスプラチン,オキサリプラチン)がある.パクリタキセル投与では57~83%と高頻度に末梢神経障害症状が出現する.通常,症状は投与中止により改善するが,慢性化することもある.今回,パクリタキセルにより引き起こされるアロディニア,痛覚過敏および感覚神経伝導速度の低下の機序について非必須アミノ酸であるL-セリンに注目して研究を行った.パクリタキセルの頻回投与によりアロディニア,機械性痛覚過敏が生じるとともに,感覚神経伝導速度が低下した.さらに,後根神経節でのL-セリン含有量低下がした.L-セリンの低下は坐骨神経・脊髄では起こらず,後根神経節に特異的であった.さらに,後根神経節ではL-セリン合成酵素である3PGDHが減少していた.組織染色では3PGDHは後根神経節の外套細胞に局在し,神経細胞には存在していないことが明らかとなった.L-セリンを投与したところ,パクリタキセルにより引き起こされるアロディニア,機械性痛覚過敏の発生および感覚神経伝導速度の低下が改善された.従って,パクリタキセルによる末梢神経障害は外套細胞から知覚神経細胞へのL-セリンの供給不全によって引き起こされることが示唆された.L-セリンは新たな治療薬として期待される.
  • 中川 貴之, 趙 萌, 白川 久志, 金子 周司
    2013 年 141 巻 2 号 p. 76-80
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    がん化学療法で用いられる抗がん薬のうち,タキサン系,ビンカアルカロイド系抗がん薬や白金製剤などは,副作用として高率に末梢神経障害を誘発するが,現在のところ,有効な予防法や対応法は確立されておらず,がん化学療法の用量規定因子ともなっている.特に,白金製剤オキサリプラチンは他の抗がん薬と異なり,投与直後から数日以内に投与された患者ほぼ全例において,寒冷被曝で誘発,増強される四肢・口周囲のしびれ,感覚異常,また,まれに咽頭・喉頭の締め付け感,感覚異常による呼吸困難や嚥下困難など,特徴的な急性末梢神経障害を誘発することが知られており,臨床現場ではその対応に苦渋している.著者らは,オキサリプラチンによる急性末梢神経障害が寒冷被曝と関連するという特徴に着目し,温度感受性transient receptor potential(TRP)チャネル(TRPA1,TRPM8,TRPV1)との関連について検討を行ってきた.これまでに,オキサリプラチン,あるいはその代謝産物で急性末梢神経障害との関連が指摘されているオキサレートをマウスに投与した数時間以内に,他の抗がん薬では認められない特徴的な冷刺激に対する過敏応答が惹起されるが,このような急性期では触刺激に対する応答に変化は認められないこと,また,この冷過敏応答はTRPA1阻害薬やTRPA1遺伝子欠損マウスで消失することを明らかにした.また,このとき,TRPA1刺激薬の後肢足底内注射による疼痛様行動,単離後根神経節細胞でのTRPA1感受性は増強するが,TRPM8およびTRPV1を介した応答に変化は認められなかった.これらの結果から,著者らは,オキサリプラチンによる急性末梢神経障害時の冷過敏応答は,知覚神経のTRPA1が活性化/機能増強された結果,生じるものであると考えている.また,これらの知見は,しびれや感覚異常といった感覚にTRPA1が関与することを示すものであると考えている.
  • 川畑 篤史
    2013 年 141 巻 2 号 p. 81-84
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    がん化学療法の副作用として生じる神経障害性疼痛は,患者のQOL低下を招くだけでなく,化学療法の中止の原因にもなりうるので,その対策は急務である.神経障害性疼痛薬物療法の第一選択薬とされているプレガバリンは,高電位活性化型Ca2+チャネルのα2δサブユニットを標的とした薬物であるが,プレガバリンが作用しないT型(低電位活性化型)Ca2+チャネルのうちCav3.2が神経障害性疼痛の病態に関与することが明らかとなり,T型Ca2+チャネル阻害薬が神経障害性疼痛の治療に応用できる可能性が示唆されている.Cav3.2は,内因性気体メディエーターである硫化水素やL-システインによって直接活性化され,またプロスタグランジンE2によりプロテインキナーゼA依存的に活性化されるほか,生体内のZn2+やビタミンCによって機能が抑制される.本稿では,Cav3.2 T型Ca2+チャネルの分子機能調節機構を概説し,特にがん化学療法に伴う神経障害性疼痛の治療標的分子としての可能性について述べる.
総説
  • 臼井 達哉, 岡田 宗善, 原 幸男, 山脇 英之
    2013 年 141 巻 2 号 p. 85-89
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    Ca2+結合タンパク質であるカルモジュリン(CaM)はCaM依存性(関連)タンパク質の機能調節を介して筋収縮,免疫応答,代謝,神経成長といった様々な細胞機能に影響を与える.最近,CaMおよびCaM依存性プロテインキナーゼ(CaMK)IIが心血管疾患の病態進展に関わるという報告がなされた.高血圧症の病態ではTNF-αやIL-6といった炎症性サイトカインの血中濃度が上昇し,活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)産生を介して血管の炎症性反応が亢進する.しかしながら,血管炎症の観点からCaM関連タンパク質の高血圧症進展に及ぼす影響はほとんど検討されていない.本総説ではCaM関連タンパク質の中でCaMKs(CaMKI,CaMKII,eukaryotic elongation factor(eEF)2 kinase(CaMKIII),CaMKIV)とCaMKスーパーファミリータンパク質(death associated protein kinase(DAPK)ファミリータンパク質,CaM serine kinase(CASK),checkpoint kinase(Chk))をとりあげ,これらの機能を心疾患における役割と血管炎症を介した高血圧症の病態制御機構に焦点を当て概説する.今後,本総説で紹介したCaM関連タンパク質をターゲットとした薬物の開発がACE阻害薬,カルシウム拮抗薬といった既存の降圧薬では治療が難しい患者に対しても有効な治療戦略になることが期待され,さらなる病態生理的役割の解明が重要になると考えられる.
実験技術
  • 色摩 弥生
    2013 年 141 巻 2 号 p. 90-94
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    造血幹細胞および造血幹細胞から分化する全ての系統の血球を含む骨髄血は,細胞分化のメカニズム解明に欠かせない生体試料である.同じ血球系統でも分化段階によって,発現する遺伝子は異なる.我々は,骨髄内で実際に起こっている好中球分化に伴う遺伝子発現変化(in vivo expression profile)を解析するため,好中球前駆細胞を6つの分化段階に分けて高純度で採取する方法を確立した.これは,(1)比重の異なる二層のPercollに骨髄血を重層して遠心し,未分化細胞を含む低比重群,分化した細胞を含む高比重群,中間比重群に分ける比重遠心法,(2)系統特異的細胞表面タンパク質に抗体を結合させ,他系統の細胞を除去する免疫磁気ビーズ法,(3)複数の分化抗原を異なる蛍光色素で標識した抗体で染色して分化段階を細かく定義し,cell sorterで各段階の細胞を得る細胞分取法の3ステップから成り,最も未分化な低比重のCD34陽性[F1],中間比重のCD11b陰性/CD16陰性[F2],CD11b陽性/CD16陰性[F3],CD11b陽性/CD16弱陽性[F4],高比重のCD11b陽性/CD16弱陽性[F5]と最も分化したCD11b陽性/CD16強陽性[F6]の6分画が得られた.これらを用いて,好中球分化を制御する転写因子CCAAT/enhancer binding protein(C/EBP)-εと,プロモーター解析と遺伝子改変動物の表現型からC/EBP-εの標的遺伝子と考えられてきたラクトフェリンのmRNAレベルを検討した.C/EBP-εの発現は,F4で最大となりその後漸減したが,ラクトフェリンはC/EBP-εに先んじてF3で最大となりF5で激減した.この結果は,分化を制御する転写因子と標的遺伝子の関係を,分化段階毎に分離した生体試料を用いて検証することの重要性を示唆する.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(24)
  • 柿原 浩明, 井深 陽子, 馬 欣欣
    2013 年 141 巻 2 号 p. 95-99
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    薬理学と関係の深い創薬は医薬品産業政策と密接なかかわりを持つ.本稿では,医薬品産業政策の課題を,経済の基盤である市場における主体の行動と経済の関わりをもとに整理する.医薬品産業政策を考える上での問題の1つは,医薬品産業政策において重視される複数の目的が必ずしも両立可能でないということである.たとえば,現在の政策の1つの流れである医療費の抑制は,その目的においてしばしば中・長期的な経済への正の影響とトレードオフの関係にある.中・長期的な経済への正の影響とは,消費者の将来の健康そのもの,または健康に起因する経済への効果のことであり,さらに生産者である医薬品業界における研究開発投資が経済成長を起こす潜在的な機動力となる,ということである.これらの医薬品の使用が健康に及ぼす影響や創薬の経済効果は,長期間にわたり発生するため定量的な評価が著しく困難であるが,医薬品産業政策を考えるうえで重要な要素である.
新薬紹介総説
  • 小畑 長英, 水谷 昌人, 天羽 正登, 百合本 悟
    2013 年 141 巻 2 号 p. 100-105
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    モガムリズマブは,世界初のCCケモカイン受容体4(CCR4)を標的とした抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性により抗腫瘍効果を示すヒト化モノクローナル抗体である.また,協和発酵キリン独自のADCC活性を高めるPOTELLIGENT®(ポテリジェント)技術を用いた世界初の抗体医薬品でもある.モガムリズマブは,in vitro試験にて成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)患者のCCR4陽性の腫瘍細胞に対して,ATL患者由来のエフェクター細胞存在下でADCC活性を示し,また,CCR4陽性のATL細胞を重症複合免疫不全マウスの皮下に移植したin vivo試験でも,対照群に比し,有意な腫瘍増殖抑制作用を示した.国内第I相臨床試験では,CCR4陽性のATL患者ら16名を対象にモガムリズマブ0.01~1.0 mg/kgを週1回,計4回投与した結果,推奨用量は1.0 mg/kgと決定され,本剤の忍容性が確認された.国内第II相臨床試験では,再発・再燃のCCR4陽性のATL患者27名に対し,モガムリズマブ1.0 mg/kgを週1回,計8回投与した.有効性評価対象の26名における総合最良効果は,CR 8名,PR 5名,SD 2名,PD 11名で,奏効率は50%(13/26名)と,本剤の有効性が確認された.26名における無増悪生存期間(PFS)中央値は5.2ヵ月,全生存期間(OS)中央値は13.7ヵ月と良好であった.国内臨床試験の安全性評価対象43名における副作用発現率は100%であった.主な副作用は,リンパ球減少95.3%,注入に伴う反応86.0%,発熱79.1%,白血球減少67.4%,好中球減少55.8%,悪寒55.8%,血小板減少53.2%等であった.一部の副作用では処置が必要であったが,いずれの事象も回復または軽快した.これらの結果を受け,モガムリズマブは,世界に先駆けて「再発又は難治性のCCR4陽性のATL」の適応症にて2012年3月に承認された.
  • 野中 聖子, 山口 志津代, 長澤 崇, 田原 誠
    2013 年 141 巻 2 号 p. 106-113
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/02/08
    ジャーナル フリー
    クリゾチニブは,受容体チロシンキナーゼ(RTK)である未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)およびその発がん性変異体(ALK融合タンパク質および特定のALK変異体)に対する低分子阻害薬である.またクリゾチニブは,肝細胞増殖因子受容体(c-Met/HGFR),recepteur d’origine nantais(RON)およびROSのRTKにおけるシグナル伝達も阻害する.酵素レベルの検討では,クリゾチニブはALK,c-Met/HGFR,RONおよびROSのキナーゼ活性を濃度依存的に阻害し,細胞レベルの検討においても,リン酸化反応およびキナーゼ活性を抑制した.また,クリゾチニブはALKに対して強力な増殖阻害活性を有し,ALK融合タンパク質[微小管会合タンパク質(EML4)-ALKおよびヌクレオフォスミン(NPM)-ALKを含む]を発現する腫瘍細胞株においてアポトーシスを誘導した.さらに,クリゾチニブはALK融合タンパク質を発現した腫瘍を異種移植したモデルマウスにおいて,顕著な腫瘍縮小などの抗腫瘍活性を示した.クリゾチニブの抗腫瘍活性は用量依存的であり,in vivoでの腫瘍におけるALK融合タンパク質のリン酸化抑制と相関がみられている.ALK融合遺伝子陽性腫瘍異種移植モデルにおける検討結果およびPK/PD解析から,クリゾチニブの非結合型薬物の有効血漿中濃度は19~23 nM(9~10 ng/mL)と推定され,この結果は臨床試験における目標血漿中濃度の設定に用いられた.臨床試験2試験において,ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象としてクリゾチニブ250 mg 1日2回(BID)の反復投与での有効性および安全性が検討されている.日本人患者を含む国際共同第I相試験(PROFILE 1001試験)において有効性評価が可能であったALK融合遺伝子陽性のNSCLC患者116例(日本人患者15例を含む)での奏効率(ORR)は61.2%[95%信頼区間(CI):51.7~70.1%],日本人患者でのORRは93.3%であり,日本人患者における治療成績は,外国人患者における成績と同様に優れた有効性を示した.また,日本人患者へのクリゾチニブ250 mg BID反復投与は,臨床試験2試験で得られた安全性の結果から,忍容性は良好であり,安全性上問題はないと考えられた.これらの非臨床および臨床試験成績よりクリゾチニブの有用性が明らかとなり,本邦ではALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発のNSCLCの治療薬として2012年3月に承認された.
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