抄録
統合失調症(SZ)は思春期から青年期に好発する精神疾患である.その病因は不明であるが,遺伝要因と環境要因が関与しており,神経発達障害がその基盤にあると考えられている.SZ遺伝子や環境要因が脳機能と神経発達に及ぼす影響を明らかにするために,これまでに多くのモデル動物が考案され,病態解明や創薬研究に用いられている.我々は,周産期のウイルス感染が神経発達に及ぼす影響を解明するためにpolyI:C誘発性周産期擬似ウイルス感染モデルを作製し,その分子機構の解明に取り組んできた.本稿では,polyI:Cモデルの神経発達障害における神経-グリア細胞相互作用とinterferon-induced transmembrane protein 3(IFITM3)の役割について概説する.PolyI:Cモデルは社会性行動やプレパルス抑制の障害など,SZに関連した行動異常と海馬グルタミン酸神経伝達の異常を示す.PolyI:Cはアストログリア細胞のToll-like receptor 3で認識され,インターフェロンシグナルを介してアストログリア細胞の初期エンドソームにIFITM3が誘導される.IFITM3はアストログリア細胞のエンドサイトーシスを抑制し,神経-グリア細胞相互作用を介して神経発達を抑制する.一方,IFITM3-KOマウスを用いたpolyI:Cモデルでは,神経発達障害や脳機能障害は認められない.IFITM3は免疫系ではウイルスに対する感染防御因子として重要な役割を果たす一方,神経系ではアストログリア細胞のエンドサイトーシスを抑制して神経発達を障害すると考えられる.今後,神経-グリア細胞相互作用に関与するグリア因子の同定を含め,polyI:Cモデルにおける神経発達障害の分子機構の全貌を解明することにより,SZの新たな治療標的を見出すことができると思われる.