日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
受賞講演総説
プロスタグランジンD2による炎症抑制機構の解明と病態治療への応用
村田 幸久
著者情報
ジャーナル フリー

2015 年 146 巻 4 号 p. 201-207

詳細
抄録

アスピリンに代表される解熱鎮痛薬は我々に最も身近な薬であり,シクロオキシゲナーゼ(COX)の活性を阻害することでプロスタグランジン(PG)の産生を止め,炎症を抑える働きを持つ.しかし,この解熱鎮痛薬はあらゆる炎症性疾患に適応できる万能薬ではなく,逆に病態を悪化させたり,消化管障害や腎障害などの副作用を引き起こすケースも報告されている.あらゆる疾患の発症と進行に深く関わり,古くから広く知られてきた炎症反応と,それを担うPGではあるが,その生理作用の完全な解明や制御ができていないのが現状である.PGD2は1973年Hambergらによって同定されたPGの1つであり,COXと造血器型のPGD合成酵素(H-PGDS)もしくはリポカリン型の合成酵素(L-PGDS)により産生される.産生されたPGD2はGタンパク質共役型受容体であるDPとCRTH2受容体に作用して生理活性を示す.PGD2の病態生理作用については,気管支平滑筋を収縮させたり,好酸球などの免疫細胞を遊走させる炎症促進作用が報告されている一方で,樹状細胞や好中球の遊走を抑制するなどの炎症抑制作用も報告されていた.つまり,PGD2の生理作用,ことに炎症制御作用については統一見解が得られていなかった.著者らは過去7年にわたり,がんや腸炎,急性肺障害,皮膚炎モデルを用いて,PGD2が様々な機構を介して炎症を抑制する作用をもつことを明らかにしてきた.これまでに明らかになってきたことを記述する.

著者関連情報
© 2015 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top