日本薬理学雑誌
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146 巻 , 4 号
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薬理学者に必要なレギュラトリーサイエンス
  • 樋坂 章博
    2015 年 146 巻 4 号 p. 180-184
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    生体の機構を数学的に記述することで,その性質を予測し実際の治療に役立てるモデリングとシミュレーションの考え方は,創薬の成功確率を高め,同時に薬物治療の質を高めるための処方箋として強調されることが多い.一方で,生体の複雑性からモデリングによる予測が現実的にどこまで可能なのか,懐疑的な見方も少なくないと思われる.ここでは,そのようなモデリングの性質を整理するとともに,現在,モデリングが最も積極的に行われて一定の成果をあげている,薬物動態,特に薬物相互作用への適用の現状について解説する.薬物相互作用については米国FDAより2006年にレギュレーションとしてガイダンス案が示され,その中で多くのモデリング技術が実際に提示され,新薬申請パッケージの中でそれらが実行されることで,臨床における薬物相互作用の予測性,さらには網羅性が高まっている方向にある.そのような方法論を広げていく場合の課題についても考察したい.
  • 中林 哲夫
    2015 年 146 巻 4 号 p. 185-190
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    精神神経領域の医薬品開発は,国際的にも活発である.これまでのうつ病治療薬の開発は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)等が中心であり,これらは今日の標準治療薬に位置づけられている.現在,数多くのうつ病治療薬が使用可能となっているが,うつ病治療の臨床的課題(unmet medical needs)は,複数の抗うつ薬による治療を試みても十分な効果が得られない患者が一定数存在することである.このため,近年のうつ病治療薬の臨床開発では,既存治療薬で効果不十分な患者を対象とした第2選択薬の開発が増加し,そして新規性の高い作用機序を有する化合物の開発が行われている.現在,臨床開発の段階にある化合物には,アミノ酸関連,神経ペプチド類関連の作用機序を有するものがあり,うつ病のモノアミン仮説を超える化合物が開発対象となっている.精神神経領域の医薬品開発を目的とした臨床試験の基本デザインはプラセボ対照比較試験であるが,臨床試験の成功割合は高くはなく,プラセボに対する優越性を示すことも容易ではない.近年は,臨床試験におけるプラセボ反応性が増加傾向にあり,その要因についても検討が進められている.これらの有効性評価に影響を及ぼす要因を特定し,より適切な臨床評価方法を検討していくことは重要であり,精神神経領域におけるレギュラトリーサイエンスの課題と考える.
  • 佐藤 弘之
    2015 年 146 巻 4 号 p. 191-196
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    日本の製薬企業は355社あるが,年間約7兆円の医薬品生産額の8割近くを上位30社で占める典型的な上位集中型の産業構造となっている.日本の医薬品市場の近年の成長率は世界平均に比べて低く,この15年間で世界の医薬品市場における日本のシェアは半減している.そのため,日本の製薬企業は海外への進出を積極的に押し進めている.新薬の研究開発には9~17年という長い期間を要し,その成功確率は約3万分の1と非常に低い.新薬開発の成功確率を上げ,効率的な開発を進めることが製薬企業の大きな課題となっている.2000年以降,医薬品開発の主流はバイオテクノロジーを駆使した抗体医薬,核酸医薬,分子標的薬などに変わってきており,今後も個別化医療,遺伝子治療,再生医療などの新たな科学技術の発展とともに医薬品開発の方向性は変化していかざるを得ない.このような新たな科学技術を用いた医薬品の研究開発を進めることは従来のような各製薬企業単独での閉鎖的イノベーションでは難しく,産学または産と産による多くのオープンイノベーションが展開されている.このような産学連携を進めるにあたっての留意点を挙げ,さらに製薬企業から規制当局およびアカデミアへ望むことなどについて述べる.
  • 松木 則夫
    2015 年 146 巻 4 号 p. 197-200
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    レギュラトリーサイエンス(RS)の重要性は認知されるようになってきたが,依然としてその具体的な中身の理解はあまり進んでいない.本稿ではRSを鳥瞰的に解説し,現状の問題点や課題を提起した.薬理学や臨床薬理学の分野は医薬品の承認審査に関する規制科学に関わりが深いが,それはRSの一部にしか過ぎない.リスク評価とリスク管理の観点から「安全性」を説明し,薬理学や薬理学研究者がどのようにRSと関わっていくかを提案する.
受賞講演総説
  • 村田 幸久
    2015 年 146 巻 4 号 p. 201-207
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    アスピリンに代表される解熱鎮痛薬は我々に最も身近な薬であり,シクロオキシゲナーゼ(COX)の活性を阻害することでプロスタグランジン(PG)の産生を止め,炎症を抑える働きを持つ.しかし,この解熱鎮痛薬はあらゆる炎症性疾患に適応できる万能薬ではなく,逆に病態を悪化させたり,消化管障害や腎障害などの副作用を引き起こすケースも報告されている.あらゆる疾患の発症と進行に深く関わり,古くから広く知られてきた炎症反応と,それを担うPGではあるが,その生理作用の完全な解明や制御ができていないのが現状である.PGD2は1973年Hambergらによって同定されたPGの1つであり,COXと造血器型のPGD合成酵素(H-PGDS)もしくはリポカリン型の合成酵素(L-PGDS)により産生される.産生されたPGD2はGタンパク質共役型受容体であるDPとCRTH2受容体に作用して生理活性を示す.PGD2の病態生理作用については,気管支平滑筋を収縮させたり,好酸球などの免疫細胞を遊走させる炎症促進作用が報告されている一方で,樹状細胞や好中球の遊走を抑制するなどの炎症抑制作用も報告されていた.つまり,PGD2の生理作用,ことに炎症制御作用については統一見解が得られていなかった.著者らは過去7年にわたり,がんや腸炎,急性肺障害,皮膚炎モデルを用いて,PGD2が様々な機構を介して炎症を抑制する作用をもつことを明らかにしてきた.これまでに明らかになってきたことを記述する.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(24)
  • 高橋 さやか, 小松 真一, 鳥海 亙
    2015 年 146 巻 4 号 p. 208-214
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    1990年代に医薬品業界を席巻した「ブロックバスターモデル」では,世界的な医薬品メーカー(以下,メーカー)のなかのリーダー的企業の方針に他の多くのメーカーが追随し,メーカー各社は,科学的専門性や労働生産性を高めて新製品を創製し,一定の成長を遂げてきた.しかしその一方で,創薬のアイディアが画一的になり,このビジネスモデルはやがて停滞した.次なるモデルでは,メーカー各社が広く様々な知見に触れて,創薬の方針を自ら描くこととし,多様な組織がそれぞれの得意な知識や技術を生かしつつ,新薬の創出という共通の目標に向けて緩やかに連携する「オープンイノベーション」が推進された.そのようななか,特性を異にする組織や機関の連携を保ち,効率的な創薬活動を支援するコンサルタントの役割が注目されている.このようにして,「オープンイノベーション」により医薬品産業の全体構造が変化して柔軟化し,創薬を担うプレーヤーの役割が再定義されつつある.各プレーヤーが自らの環境の変化を敏感に察知し,負うべきリスクを戦略的に判断することが,医薬品産業の再興のキーファクターになると思われる.
新薬紹介総説
  • 田牧 千裕, 竹内 雅和, 岩本 紀之, Wolfgang Glaesner
    2015 年 146 巻 4 号 p. 215-224
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    デュラグルチド(遺伝子組換え)は,ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)による分解を抑制するためにヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)にアミノ酸置換を導入したGLP-1アナログを,ペプチドリンカーを介してヒト免疫グロブリン重鎖(IgG4 Fc)領域に結合したFc融合タンパク質であり,週1回皮下投与が可能な持効型GLP-1受容体作動薬である.本薬はヒトGLP-1受容体に選択的に結合し,GLP-1と同程度の受容体活性化能を示したほか,膵島細胞においてグルコース濃度依存的なインスリン分泌促進作用を示した.Fcγ受容体を介した抗体依存性細胞傷害活性は認められなかった.また,ラットおよびサルにおいてグルコース濃度依存的なインスリン分泌の促進が持続的に認められ,2型糖尿病病態モデルマウスで血糖降下作用および体重低下作用を示した.ヒトにおける消失半減期は約4.5日であり,週1回投与による曝露の持続が示された.日本人2型糖尿病患者を対象とした国内第Ⅱ相臨床試験において,0.75 mg週1回投与によりプラセボ投与群と比較して統計学的に有意なHbA1cの改善ならびに空腹時血糖および7点自己血糖測定を含む血糖パラメータの用量依存的な低下が認められた.本剤の安全性プロファイルはヒトGLP-1由来のリラグルチドと同様であり,exendin-4由来のGLP-1受容体作動薬と比べて胃腸障害,注射部位反応および抗薬物抗体産生の発現割合は低かった.本剤は投与開始時の用量漸増が不要であり,単独療法および他の血糖降下薬との併用療法が可能である.また,本薬の皮下投与用デバイスである自動注入器には,あらかじめ薬液が充填された固定針付きシリンジが組み込まれているため,用時調製の必要がない.本剤は有効性,安全性ならびに利便性の観点から,多くの2型糖尿病患者にとって使用しやすい薬剤となることが期待される.
  • 森本 宏, 菊川 義宣, 村上 尚史
    2015 年 146 巻 4 号 p. 225-232
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/10
    ジャーナル フリー
    尋常性ざ瘡は,脂腺性毛包での毛包漏斗部の角化異常に伴う閉塞およびPropionibacterium acnesP. acnes)などの細菌増殖による炎症惹起を含め,多因子が絡み合って発症する疾患とされる.過酸化ベンゾイルは,分解に伴い生じるフリーラジカルが,尋常性ざ瘡の病態に関与するP. acnesなどの細菌の細胞膜構造などを障害することで抗菌作用を発揮すると考えられる.また,角層中コルネオデスモソームの構成タンパク変性に基づいて,角質細胞間の結合を弛めて角層剥離促進をもたらすと示唆される.これらの薬理学的機序により,過酸化ベンゾイルは細菌増殖を抑制し,毛包内に貯留した皮脂放出を促すことで尋常性ざ瘡を改善する.尋常性ざ瘡患者を対象とした国内臨床試験において,過酸化ベンゾイルゲル2.5%を1日1回,12週間塗布することにより,治療開始2週後からプラセボに対し有意な炎症性および非炎症性皮疹数の減少を示した.また長期投与試験により,52週後まで皮疹数減少が維持されることを確認した.さらに,被験者に認められた副作用はおもに適用部位である皮膚に発現したもので,多くは軽度の事象であり,いずれも無治療あるいは薬物治療で回復した.本剤は,52週間塗布することによりP. acnesの抗菌薬感受性を低下させることなく,かつ抗菌薬感受性に関わらず皮疹改善効果に影響は認められなかった.さらに,本剤塗布後,過酸化ベンゾイルは安息香酸および馬尿酸に代謝され,尿中に排泄された.以上から,過酸化ベンゾイルゲル2.5%は,尋常性ざ瘡治療において忍容性が高く持続的な治療効果が得られる薬剤であり,海外と同様に本邦での標準的な治療薬の一つとして期待が持てる.
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