日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
性機能障害および下部尿路機能障害の治療における今後の展望
前立腺肥大症/下部尿路症状に対するPDE5阻害薬の効果
松本 成史柿崎 秀宏
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 147 巻 1 号 p. 40-44

詳細
抄録

1977年,F. Muradらは生体内における血管内皮由来物質としてのNO(一酸化窒素)の働きを発見し,1998年にはノーベル生理学・医学賞を受賞した.血管内皮やNO作動性神経から放出されたNOは,cGMP(環状グアノシン一リン酸)を産生して平滑筋を弛緩させる.cGMPを分解するPDE(ホスホジエステラーゼ)type5の活性化を抑制するPDE5阻害薬は,平滑筋細胞内cGMP濃度の低下を防ぎ,結果としてNO産生量を増加させる.PDE5阻害薬は,1990年代前半に狭心症治療薬として開発されていたが,陰茎海綿体平滑筋等を弛緩させることでED(勃起不全)に有効であることが認められ,本邦においても1999年にシルデナフィルがED治療薬として承認を受けた.またPDE5阻害薬はPAH(肺動脈性肺高血圧症)治療薬としても臨床応用されており,EDのみならず全身的な血管・血流改善薬の可能性を秘めている.LUTS/BPH(前立腺肥大症に伴う下部尿路症状)に関しては,その相関性について議論されており,共通の発症要因としてのNO-cGMP系の低下が注目されてきた.PDE5は陰茎海綿体のみならず,膀胱,前立腺,尿道をはじめとする下部尿路にも広く分布していることが知られており,PDE5阻害薬の中でタダラフィルは2014年に「BPHに伴う排尿障害」治療薬として本邦においても臨床での使用が開始となった.PDE5阻害薬は膀胱出口部閉塞抑制作用,骨盤内血流改善作用,求心性神経活動抑制作用といった下部尿路に対する作用に加え,抗炎症作用,抗酸化作用,血管内皮保護作用等の多岐に亘る薬理作用を有していることが知られており,本項では第88回日本薬理学会年会シンポジウムで発表した内容を中心に報告する.

著者関連情報
© 2016 公益社団法人 日本薬理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top