日本薬理学雑誌
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特集 RNAとエピジェネティクス研究の最前線と疾患治療・創薬の可能性
RNA結合タンパク質とmiRNAが織りなす翻訳ネットワーク
青山 智彦深尾 亜喜良藤原 俊伸
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2016 年 147 巻 6 号 p. 346-350

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抄録

「翻訳」とはmRNAに書き込まれた遺伝情報がタンパク質へと変換される過程である.生体内においてタンパク質の供給量は,mRNAの転写量,mRNAの安定性,翻訳効率において規定されており,様々な因子がこれらの段階を制御することがわかっている.翻訳は開始・伸長・終結の3つのステップから成り,開始段階は翻訳の律速段階であることから,翻訳効率を調節するうえで効率がよい.真核生物のmRNAは5′非翻訳領域(5′ untranslated region:5′ UTR)にcap構造(m7GpppN),3′非翻訳領域(3′ untranslated region:3′ UTR)にアデニンが連続したpoly(A)鎖をもっており,これらを足場として様々な翻訳開始因子およびRNA結合タンパク質がmRNA上に結合し,複雑なネットワークを形成することで翻訳の開始が巧妙に制御されている.神経特異的なRNA結合タンパク質であるHuDは,神経前駆細胞で発現して神経分化を誘導することが知られている.我々は,HuDがcap構造・poly(A)鎖依存的な翻訳を促進すること,シグナル伝達因子であるAkt1の活性型と特異的に結合することを報告している.そして,HuDによる神経分化誘導は,翻訳促進能と活性型Akt1に依存する.さらに興味深いことに,HuDがmicroRNA(miRNA)による翻訳効率の抑制と拮抗することが,近年の研究で明らかになってきた.miRNAはAGO(Argonaute)に取り込まれることでmiRISC(miRNA-induced silencing complex)を形成し,配列依存的に標的mRNAの3′ UTRに結合して,タンパク質合成を抑制することが明らかになっている.そしてその分子機構は,mRNAの安定性を低下させること,そして翻訳効率を低下させることである.しかしながら,mRNAの安定性に対する制御は,広く研究されその詳細が紐解かれつつある一方で,翻訳効率に対する制御については不明な点が多く,その素過程は長らく不明であった.そして我々の研究グループおよび東京大学の研究グループにより,miRISCが翻訳開始因子eIF4Aを翻訳開始複合体から解離させて,翻訳を「純粋」に抑制することが明らかにされた.これらのことは,翻訳制御においてRNA結合タンパク質とmiRNAが相互に関与することで,遺伝子発現を制御していることを示唆する実例である.ここを糸口として,現在未知とされていた生命現象や疾患が解き明かされることが期待されるものである

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