日本薬理学雑誌
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147 巻, 6 号
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特集 iPS細胞と遺伝子治療の実用化研究の現状と今後の展望
  • 佐藤 岳哉, 柳澤 輝行
    2016 年 147 巻 6 号 p. 326-329
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    私たちは,高活性化thymidylate kinase(TMPK)とazidothymidine(AZT)を用いる新規遺伝子治療法の開発を行ってきた.TMPK遺伝子をレンチウィルスに組み込むことでがん細胞などの標的細胞に導入し,その後AZT投与することで遺伝子導入細胞に効果的に細胞死を誘導できる.今回,本方法が抗がん遺伝子治療法として効果を発揮するために必要なBystander効果を有するかどうかについて,in vitroおよびin vivoモデルを用いて検討した.高活性化TMPKを発現細胞においてAZTは活性化体に変換され細胞死を誘導したが,同時に周囲に存在するBystander細胞にも,細胞死を誘導するBystander効果を発揮した.このBystander効果発揮において,細胞間接着装置が重要であることを確認した.さらにin vivo腫瘍細胞移植モデルにおいて,形成された固形腫瘍に治療ウィルスを投与,さらにAZT処置を行うと,形成された腫瘍組織の縮小が観察され,in vivoにおいても本方法がBystander効果を発揮することが確認できた.以上の結果からTMPK/AZTを用いる本方法は,固形腫瘍に対する遺伝子治療法として有用であると考える.
  • 金田 安史
    2016 年 147 巻 6 号 p. 330-333
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    がんは近年の種々の抗がん治療法の開発にも関わらず,未だ治療困難な疾患である.がんは不均一性を示すため,単一治療法でのがんの根治療法は不可能である.そのため,様々な側面からの治療方法が必要とされている.私たちはUV照射により不活性化したセンダイウィルス粒子(hemagglutinating virus of Japan:HVJ)エンベロープベクター(HVJ-E)を用いる新規遺伝子デリバリーシステムを開発した.種々の担がんモデルに対してHVJ-Eを投与すると,HVJ-Eそのものに抗腫瘍活性があるということを私たちは見いだした.私たちはHVJ-Eを抗がん治療法として開発するために,HVJ-Eの抗腫瘍活性の分子機構について検討を行った.HVJ-Eの抗腫瘍活性の一つは,がんに対するNK活性およびCTL活性増強,制御性T細胞の抑制に因るものであった.さらに別の抗腫瘍活性として,HVJ-Eががん細胞にウィルスRNA断片を導入することで,RIG-I/MAVS経路を介して細胞死に関連するTRAILやNoxaの発現亢進が起き,その結果がん細胞特異的にアポトーシスを誘導するものである.現在,日本において臨床試験に使用可能なHVJ-Eを用いて,メラノーマと前立腺がんに対する臨床試験が進行中である.HVJ-Eは種々の治療分子を組み込むことが可能であるので,将来,種々の抗がん治療法の側面をもつ治療法ががんの治療法として用いることが可能になることが期待される.
  • 諫田 泰成, 芦原 貴司, 黒川 洵子
    2016 年 147 巻 6 号 p. 334-338
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    ヒトiPS細胞を用いた創薬応用はここ数年急速に展開しており,創薬プロセスの早い段階で医薬品候補化合物の安全性や有効性を確実にスクリーニングできれば創薬の効率化や向上,安全性の確保などまさに創薬プロセスの変革が実現できる.我々はヒトiPS細胞の創薬応用の可能性についてヒトiPS細胞由来心筋細胞に関する検証を行い,細胞間のばらつきや成熟度などの問題点を明らかにしてきた.さらに,それらを克服する手法として,細胞シート標本の利用や成熟化のアプローチを見出すとともに,コンピュータシミュレーションのアプローチも検証するなど,ヒトiPS細胞の実用化の加速を目指して多角的に取り組んでいる.本稿では,ヒトiPS細胞由来心筋細胞の品質特性に関する知見を基にして,ヒトiPS細胞由来心筋細胞による新しい安全性評価法の確立に向けた現状と整備すべき課題について議論したい.これにより今後,ヒトiPS細胞を用いた心臓安全性評価の早期実現が期待される.
特集 RNAとエピジェネティクス研究の最前線と疾患治療・創薬の可能性
  • 佐藤 亮介, 萩原 加奈子, 喜多 綾子, 杉浦 麗子
    2016 年 147 巻 6 号 p. 340-345
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    ERK MAPK経路やPI3K/Akt経路といった細胞内シグナル伝達機構は真核生物に高度に保存されており,細胞増殖や分化,アポトーシスといった様々な生命現象を制御している.このようなシグナル伝達機構に破綻が生じると,がんや自己免疫疾患,糖尿病,神経変性疾患などの疾病の引き金となることが知られている.したがって,シグナル伝達機構の制御機構を明らかにすることは,病態のメカニズム解明にとどまらず,疾病治療という観点からも極めて重要である.近年,シグナル伝達ネットワークを時空間的にダイナミックに制御する機構として,「RNA顆粒」という構造体が注目を集めている.ストレス顆粒やP-bodyといったRNA顆粒は,ポリ(A)RNAやRNA結合タンパク質などから構成されており,mRNAのプロセシングや分解,安定化といった転写後調節に関わる「RNAの運命決定装置」として発見された.我々は酵母遺伝学とゲノム薬理学的研究を展開することにより,MAPKシグナル依存的にストレス顆粒に取り込まれるRNA結合タンパク質を同定し,MAPKシグナルがストレス顆粒の形成を制御していることを見出した.さらに,カルシウムシグナルのキープレーヤーであり,免疫抑制薬FK506の標的分子でもあるSer/Thrホスファターゼ「カルシニューリン」がストレス顆粒に取り込まれることで,カルシニューリンシグナルが空間的に制御されていることを見出した.このような「ストレス応答やシグナル制御の拠点」としてのRNA顆粒の役割に関して種を超えた理解が進みつつあり,異常なRNA顆粒の形成と神経変性疾患やがんなどの病態との興味深い関係が浮かび上がりつつある.本総説では,我々の研究が明らかにしたシグナル伝達制御とRNA顆粒との関わり,その疾患治療への応用の可能性について紹介する.
  • 青山 智彦, 深尾 亜喜良, 藤原 俊伸
    2016 年 147 巻 6 号 p. 346-350
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    「翻訳」とはmRNAに書き込まれた遺伝情報がタンパク質へと変換される過程である.生体内においてタンパク質の供給量は,mRNAの転写量,mRNAの安定性,翻訳効率において規定されており,様々な因子がこれらの段階を制御することがわかっている.翻訳は開始・伸長・終結の3つのステップから成り,開始段階は翻訳の律速段階であることから,翻訳効率を調節するうえで効率がよい.真核生物のmRNAは5′非翻訳領域(5′ untranslated region:5′ UTR)にcap構造(m7GpppN),3′非翻訳領域(3′ untranslated region:3′ UTR)にアデニンが連続したpoly(A)鎖をもっており,これらを足場として様々な翻訳開始因子およびRNA結合タンパク質がmRNA上に結合し,複雑なネットワークを形成することで翻訳の開始が巧妙に制御されている.神経特異的なRNA結合タンパク質であるHuDは,神経前駆細胞で発現して神経分化を誘導することが知られている.我々は,HuDがcap構造・poly(A)鎖依存的な翻訳を促進すること,シグナル伝達因子であるAkt1の活性型と特異的に結合することを報告している.そして,HuDによる神経分化誘導は,翻訳促進能と活性型Akt1に依存する.さらに興味深いことに,HuDがmicroRNA(miRNA)による翻訳効率の抑制と拮抗することが,近年の研究で明らかになってきた.miRNAはAGO(Argonaute)に取り込まれることでmiRISC(miRNA-induced silencing complex)を形成し,配列依存的に標的mRNAの3′ UTRに結合して,タンパク質合成を抑制することが明らかになっている.そしてその分子機構は,mRNAの安定性を低下させること,そして翻訳効率を低下させることである.しかしながら,mRNAの安定性に対する制御は,広く研究されその詳細が紐解かれつつある一方で,翻訳効率に対する制御については不明な点が多く,その素過程は長らく不明であった.そして我々の研究グループおよび東京大学の研究グループにより,miRISCが翻訳開始因子eIF4Aを翻訳開始複合体から解離させて,翻訳を「純粋」に抑制することが明らかにされた.これらのことは,翻訳制御においてRNA結合タンパク質とmiRNAが相互に関与することで,遺伝子発現を制御していることを示唆する実例である.ここを糸口として,現在未知とされていた生命現象や疾患が解き明かされることが期待されるものである
  • 三野 享史, 竹内 理
    2016 年 147 巻 6 号 p. 351-356
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    自然免疫細胞は病原体の侵入をToll様受容体(TLR)などのパターン認識受容体により検出し,シグナルカスケードの活性化を経て転写因子であるNF-κBやAP1が活性化し,炎症性サイトカイン遺伝子などの転写を誘導する.これまで,サイトカイン産生(サイトカインタンパク質の翻訳)はそのmRNAの転写により調節されると考えられてきた.しかし,転写されたmRNAの安定性やタンパク質への翻訳は転写後調節と呼ばれる制御機構により細胞内で厳密に制御されており,転写後調節は自然免疫応答である炎症の開始と収束にも重要な役割を担っていることが明らかになってきた.近年,TTP,AUF1,RoquinおよびRegnase-1などのRNA結合タンパク質が,免疫応答における転写後調節に重要な役割を果たしていることが報告されている.本稿では,自然免疫における転写後調節について概説し,特に我々の研究室において最近報告したRegnase-1とRoquinによる炎症性サイトカイン制御の例を示し,そのメカニズムに関し議論したい.
  • 出口 彰一, 近藤 豊
    2016 年 147 巻 6 号 p. 357-361
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    膠芽腫は最も予後不良な悪性脳腫瘍のひとつである.膠芽腫を含む多くのがんでは,遺伝子変異などのゲノム異常やエピゲノム異常が蓄積してがんの病態形成に寄与している.特にエピゲノム異常はがんの動的な変化に関与しており,これからのがん治療を考える上で重要な治療標的となる.エピゲノム異常にはこれまでによく知られているDNAのメチル化異常やヒストン修飾異常にくわえて非翻訳RNAがエピゲノム異常の形成に関与していることが最近明らかになってきた.本稿では膠芽腫におけるエピゲノム異常,特に長鎖非翻訳RNA(lncRNA)に関して研究の現況と将来への展望について述べる.
創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(4)
  • 阿部 智行, 宮川 伸, 中村 義一
    2016 年 147 巻 6 号 p. 362-367
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/11
    ジャーナル フリー
    アプタマーとは,複雑な三次元立体構造をとることで標的分子に結合する一本鎖のRNAまたはDNA分子である.標的となる分子は,タンパク質,ペプチド,炭水化物,脂質,低分子化合物,金属イオンなど多岐にわたり,その高い結合力と特異性から,医薬品や診断薬,分離剤などさまざまな分野で実用化されている.医薬品としては,世界で初めてのアプタマー医薬であるMacugen®が滲出型加齢黄斑変性症治療薬として2004年にアメリカで承認され,いくつかのアプタマーが臨床段階にある.また,ドラッグデリバリーシステム(DDS)のツールとしての研究も進んでおり,医薬品分野におけるアプタマーの重要性がますます高まることが予想される.そこで本稿では,医薬品としてのアプタマーの取得方法,最適化について概説し,臨床試験中のアプタマー医薬の最新の動向について紹介する.
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