日本薬理学雑誌
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特集:中枢神経系の選択的細胞死:機序解明と治療法確立に向けて
視床下部オレキシンニューロンの選択的変性に関与する要因
香月 博志
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2018 年 152 巻 2 号 p. 70-76

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抄録

睡眠・覚醒障害を特徴とするナルコレプシーは,神経ペプチドであるオレキシンを産生する視床下部ニューロンの選択的変性・脱落により引き起こされる中枢神経変性疾患である.オレキシンの発見以前より特定のヒト白血球型抗原ハプロタイプとナルコレプシーとの関連性が指摘されていたことから,自己免疫応答が病因として関与する可能性が追究されてきた.その結果,T細胞受容体などの遺伝子多型や一部の患者における血中自己抗体の増加等の自己免疫との関連性を伺わせる知見が見出されており,またインフルエンザウイルス感染などとの関連性についても議論されているが,大多数の症例に通じる病理形成機序の解明には至っていない.我々は,培養視床下部組織切片を用いて得たオレキシンニューロンの特性に関する知見,およびオレキシンの構造上の特徴を手掛かりとして,オレキシンニューロンの選択的変性に関与しうる新たな機序を提唱した.すなわち,睡眠不足や高脂肪食摂取などの生活習慣関連要因によって視床下部局所での一酸化窒素の産生が増大すると,プロテインジスルフィドイソメラーゼが不活性化される結果,分子内に2箇所のジスルフィド結合を有するオレキシン-Aもしくはその前駆体の異常凝集体が細胞内に蓄積する.オレキシンの異常凝集体としての蓄積は,小胞体ストレスを増大させるのに加え,神経終末からのオレキシン遊離不全に伴うフィードバック抑制の解除によりオレキシンニューロンの異常興奮を招く.このような機序は,ナルコレプシーに限らずオレキシンの減少を伴う他の種々の神経精神疾患の病理形成過程を理解する上でも重要な手掛かりとなる可能性がある.

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