日本薬理学雑誌
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特集:小脳神経細胞における細胞内情報伝達と創薬
小脳顆粒神経細胞におけるGPR3のシグナリングと機能
田中 茂
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キーワード: 小脳顆粒神経細胞, GPCR, cAMP, PKA
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2018 年 152 巻 2 号 p. 78-83

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抄録

ヒトゲノムには約800種類のGタンパク質共役型受容体(GPCR)がコードされていると言われており,GPCRはこれまで多くの創薬のターゲットとされてきた.G-protein-coupled receptor 3(GPR3)はclass A rhodopsin-type GPCRファミリーに属するGPCRで,タンパク質レベルで相同性が高いGPR6,GPR12と共にファミリーを形成し,中枢神経系の様々な神経細胞に豊富に発現していることが知られている.これら受容体はいずれもリガンド非存在下での恒常的Gαs活性化能を有し,細胞内cAMPの基底レベルを上昇・維持する機能を有する.また,GPR3は発生過程の小脳顆粒神経細胞で発現が増加し,生涯にわたって発現が維持される.著者らはこれまで主に小脳顆粒神経細胞を用いてGPR3の神経細胞における機能解析に取り組んできた.その結果,小脳顆粒神経細胞に内因性に発現するGPR3は,下流のPKA依存的な経路のみならず,PI3キナーゼ依存的な経路を介して,神経突起伸張,神経細胞生存に関連することが明らかになった.さらに,Gβγを介したシグナリング経路がGPR3を介した神経突起伸張に関連することを見出している.したがって,神経細胞に発現するGPR3は下流の様々なシグナル伝達経路を活性化し,神経細胞の恒常性維持に寄与する可能性が示唆される.また,小脳顆粒神経細胞においてGPR3の発現は形質膜,小胞体,エンドソームで認められたが,FRET解析によるGPR3を介したPKA活性化は形質膜でのみ観察された.さらに,蛍光タグを付加したGPR3タンパク質小胞は神経突起内を神経突起先端方向に運搬され,突起先端の形質膜に集積し,先端局所のPKA活性化に寄与することが明らかとなった.小脳顆粒神経細胞におけるGPR3の機能と役割に関しては未だ十分に解明されていないが,今後リガンドが同定されさらに解析が進むことにより,恒常的活性化型GPCRの新たな機能が明らかとなり,創薬への応用の道が開かれるかもしれない.

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