日本薬理学雑誌
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特集:ウイルスベクター技術による神経回路操作と薬理研究への応用
ウイルスベクターによるDREADD導入を用いたコカイン報酬記憶の発現機構の解析
金田 勝幸出山 諭司檜井 栄一柳田 淳子張 彤笹瀬 人暉
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2019 年 153 巻 5 号 p. 219-223

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抄録

麻薬や覚醒剤に対する強烈な渇望感が持続する精神疾患である薬物依存の形成・維持には,依存性薬物の摂取に伴う腹側被蓋野から側坐核(nucleus accumbens:NAc),および,内側前頭前野(medial prefrontal cortex:mPFC)へ至るドパミン神経系から構成される脳内報酬系の活性化と可塑的変化が重要であると考えられている.すなわち,コカイン摂取による報酬系神経回路の活性化と可塑的変化が,コカイン報酬記憶の獲得や想起に関与すると考えられる.しかし,これらの過程に関わる脳部位や神経伝達についての豊富な知見に対し,その脳部位のどの神経細胞の活動が報酬記憶の想起に因果的に関与するのかは必ずしも明らかではなかった.我々は,アデノ随伴ウイルスベクターにより抑制性のDREADD(designer receptors exclusively activated by designer drugs)であるhM4Diを細胞種選択的に導入することにより,コカイン条件付け場所嗜好性試験におけるコカイン報酬記憶の想起に重要な神経細胞を同定した.すなわち,興奮性ニューロン特異的にhM4Diを発現させるためにAAV5-CaMKII-hM4Di-mCherryまたはAAV-DJ-CaMKII-hM4Di-mCherryを野生型マウスに,また,抑制性ニューロン選択的にhM4Diを発現させるためにAAV5-hSyn-DIO-hM4Di-mCherryまたはAAV-DJ-hSyn-DIO-hM4Di-mCherryをGAD67-CreあるいはvGAT-Creマウスに導入し,それぞれのニューロンの活動を選択的に抑制した結果,mPFC興奮性ニューロンとNAc GABA作動性ニューロンの活動上昇が,コカイン報酬記憶の想起に重要であることを見出した.薬物依存患者では,薬物を摂取した環境などにより薬物報酬記憶が想起され,再摂取につながることから,これらの神経細胞活動の適切な制御が薬物依存に対する治療ターゲットとなる可能性が期待される.

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