皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)は,抗原を皮下に長期間投与し免疫寛容を誘導することから,アレルギー疾患に対する唯一の根治療法といえる.SCITの臨床的有効性は確立されており,その効果発現メカニズムには制御性T細胞(Treg細胞)の増加が関与するとされる.Treg細胞には,マスター転写因子としてforkhead box P3(Foxp3)を発現するCD25+ CD4+ T細胞(Foxp3+ Treg細胞),ならびに抗炎症性サイトカインであるIL-10を高産生するFoxp3- CD4+ T細胞(Tr1細胞)が存在する.我々は,SCITを行ったスギ花粉症患者(SCIT治療群)の末梢血中におけるFoxp3+ Treg細胞ならびにTr1細胞が,SCIT非治療群に比べ多いか否か解析を行ったところ,Foxp3+ Treg細胞数に関しては有意な差は認められなかったが,SCIT治療群のTr1細胞数はSCIT非治療群のそれらに比べて有意に多いことを明らかにした.また,SCITを行った喘息マウスにおいても,喘息反応が抑制されるとともに,肺においてFoxp3+ Treg細胞ではなくTr1細胞の有意な増加が認められた.さらに,in vitro誘導したTr1細胞を喘息マウスに養子移入すると,反応惹起により肺において顕著なIL-10の産生が認められ,喘息反応が抑制されることを明らかにした.このように,ヒトおよびマウスのいずれの種属においても,SCITの効果発現には,Foxp3+ Treg細胞よりむしろTr1細胞の増加が重要であり,増加したTr1細胞は抗原刺激に反応しIL-10を産生することでアレルギー反応を抑制すると考えられる.したがって,Tr1細胞の誘導機序の解析ならびに誘導薬物の探索は,より効率的なSCITの創出に繋がると考えられる.