日本薬理学雑誌
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154 巻, 1 号
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特集:アレルゲン免疫療法の薬理学
  • 杜 偉彬, 前川 祐理子, 夏井 謙介
    2019 年 154 巻 1 号 p. 6-11
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/12
    ジャーナル フリー

    アレルゲン免疫療法(allergen immunotherapy:AIT)は,原因アレルゲンを有効成分として投与することにより,アレルギーの根治が期待できる唯一の治療法とされている.日本では,1960年代より花粉やダニに起因するアレルギー性鼻炎に対する皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)が導入され,その臨床効果も認知されている.しかし,SCITでは,アナフィラキシーなどの全身性反応のリスクが課題であり,それを解決するために舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)が確立された.日本では,スギ花粉症の成人及び12歳以上の小児において,初めてのSLIT製剤としてスギ花粉舌下液が2014年に承認された.その後,当社は至適用量の設定や服薬の利便性の向上を実現させるために,SLIT錠の開発に着手した.ダニアレルギー性鼻炎の成人及び12歳以上の小児においては,ダニ舌下錠が2015年に承認されたのち,2018年に12歳未満の小児においても追加適応の承認を取得した.一方,スギ花粉症に対しては,スギ花粉舌下錠が2018年に年齢制限がなく承認された.本稿では,SLITの液剤及び錠剤の開発経緯とともに,SLIT錠の製剤技術,舌下投与後のアレルゲンの体内分布についても述べる.

  • 伊原 史英, 櫻井 大樹, 岡本 美孝
    2019 年 154 巻 1 号 p. 12-16
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/12
    ジャーナル フリー

    Th2細胞はアレルギー疾患に重要な働きをすることはよく知られているが,近年,IL-33レセプターであるST2を発現し大量のTh2サイトカインを産生するTh2細胞(pathogenic Th2細胞)が,アレルギー疾患の病態形成に重要な役割を持つことが報告されている.さらにアレルギー性鼻炎発症への関与も示されてきたが,その特徴は十分明らかとなっていない.現在,アレルギー性鼻炎を根本的に改善させうる唯一の治療法がアレルゲン免疫療法であり,特にその安全性と侵襲の少なさから舌下免疫療法に注目が集まっている.本研究では,ダニ舌下錠を用いた大規模プラセボ対照二重盲検比較第Ⅲ相試験に参加したダニアレルギー性鼻炎患者の末梢血単核球を用いて,ダニ抗原に反応するTh2細胞の特徴と舌下免疫療法の治療効果を評価するマーカーとしての有用性を検討した.患者末梢血単核球にダニ抗原を加え1週間培養し,抗原に反応したTh2細胞の特徴についてフローサイトメトリーを用いて解析した.実薬群とプラセボ群の比較では,Th2サイトカイン産生細胞が実薬群の治療後に減少したが,これに加えて新たにST2細胞,IL-5,IL-13産生型CD27CD161細胞(CD27CD161細胞)が治療に関連して変動することを見いだした.さらにこのST2細胞およびCD27CD161細胞は,実薬群の有効例において無効例と比較して減少を認めた.本研究では,ダニアレルギー性鼻炎において,新たにダニ特異的なST2細胞,CD27CD161細胞の存在,および舌下免疫療法の効果と関連した減少を示し,これらの細胞集団はpathogenic Th2細胞としてダニアレルギー性鼻炎の病態の変化に関わる可能性が示唆された.さらにこれらの細胞集団の治療前後の変動と自覚症状との相関から,これまで客観的評価が困難であったダニアレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の治療効果をより正確に評価可能とする治療効果判定マーカーとしての有用性が期待される結果を示した.

  • 松田 将也, 寺田 哲也, 北谷 和之, 河田 了, 奈邉 健
    2019 年 154 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/12
    ジャーナル フリー

    皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)は,抗原を皮下に長期間投与し免疫寛容を誘導することから,アレルギー疾患に対する唯一の根治療法といえる.SCITの臨床的有効性は確立されており,その効果発現メカニズムには制御性T細胞(Treg細胞)の増加が関与するとされる.Treg細胞には,マスター転写因子としてforkhead box P3(Foxp3)を発現するCD25 CD4 T細胞(Foxp3 Treg細胞),ならびに抗炎症性サイトカインであるIL-10を高産生するFoxp3 CD4 T細胞(Tr1細胞)が存在する.我々は,SCITを行ったスギ花粉症患者(SCIT治療群)の末梢血中におけるFoxp3 Treg細胞ならびにTr1細胞が,SCIT非治療群に比べ多いか否か解析を行ったところ,Foxp3 Treg細胞数に関しては有意な差は認められなかったが,SCIT治療群のTr1細胞数はSCIT非治療群のそれらに比べて有意に多いことを明らかにした.また,SCITを行った喘息マウスにおいても,喘息反応が抑制されるとともに,肺においてFoxp3 Treg細胞ではなくTr1細胞の有意な増加が認められた.さらに,in vitro誘導したTr1細胞を喘息マウスに養子移入すると,反応惹起により肺において顕著なIL-10の産生が認められ,喘息反応が抑制されることを明らかにした.このように,ヒトおよびマウスのいずれの種属においても,SCITの効果発現には,Foxp3 Treg細胞よりむしろTr1細胞の増加が重要であり,増加したTr1細胞は抗原刺激に反応しIL-10を産生することでアレルギー反応を抑制すると考えられる.したがって,Tr1細胞の誘導機序の解析ならびに誘導薬物の探索は,より効率的なSCITの創出に繋がると考えられる.

  • 神沼 修, 後藤 穣, 大久保 公裕, 中谷 明弘, 廣井 隆親
    2019 年 154 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/12
    ジャーナル フリー

    アレルゲン免疫療法は,1960年代より行われてきた皮下免疫療法(subcutaneous immunotherapy:SCIT)の時代から,その高い有効性と,各種アレルギー疾患治療法の中でほぼ唯一「根治」が見込める治療法として,その評価が確立されてきた.さらに近年,SCITにおける煩雑な抗原投与法を大幅に改良した舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)薬が登場したことによって,2014年のシダトレンを皮切りに毎年のように新薬が上市される等,アレルギー性鼻炎の治療はまさにパラダイムシフトの時代を迎えている.一方その長い歴史の中で,アレルゲン免疫療法がどのようにして根治も目指せる高い有効性を発揮できるのか,その作用メカニズムの解析も進められてきたが,現在に至るまでその全容は解明されていない.今のところ,アレルゲンのIgE結合を阻害する抑制性抗体の産生や,Th1/Th2バランスの正常化,制御性T細胞の誘導等が,主たるメカニズムとして有力とされるが,それらを否定する報告も多い.われわれも最近,スギ花粉症を対象としたSLITの臨床研究を実施した中で,そのメカニズムの解明に挑戦した.特に,通常行われるプラセボとの比較ではなく,実薬を投与されていながら高い有効性を示した著効患者と,全く効果のみられなかった無効患者間での比較を行うことによって,さらに単一のパラメータ間ではなく,多くのパラメータを統合的に比較解析することによって,これまで知られていなかった,SLITの作用メカニズムに結びつく生体応答カスケードを含めた作用点が浮かび上がってきた.本稿では,アレルゲン免疫療法が有効性を発揮する作用メカニズムについて,われわれの最近の解析結果を紹介しながら論じてみたい.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(33)
  • 中野 正隆, 中島 美紀
    2019 年 154 巻 1 号 p. 28-34
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/12
    ジャーナル フリー

    薬物代謝反応は医薬品の体内動態,薬効,副作用発現を左右する要因である.主な薬物代謝酵素であるシトクロムP450(P450,CYP)やUDP-グルクロン酸抱合酵素(UGT)の肝臓における発現量や酵素活性には大きな個人差が存在し,薬物応答性の差異の原因となる.薬物代謝酵素の発現制御機構については,転写過程における制御メカニズムを中心に研究が進められてきた.加えてここ10年の研究の進歩によりmicroRNA(miRNA)による転写後制御に関する知見が蓄積してきた.miRNAは22塩基程度の内因性のスモールRNAであり,標的mRNAに部分相補的に結合することでその発現を負に制御する.最近ではmiRNAによる薬物代謝制御に偽遺伝子や一塩基多型の存在,ならびにRNA編集が影響を与えることが明らかになり,miRNAと標的遺伝子の1対1の関係のみに着目するだけでは説明がつかない発現制御の事例が明らかになってきた.本稿ではこれらを含めmiRNAによる薬物代謝制御について最新知見を紹介する.

新薬紹介総説
  • 德永 紳, 遠藤 祐一, 川田 剛央
    2019 年 154 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/12
    ジャーナル フリー

    細胞外カルシウム(Ca)濃度の感知機構であるCa受容体(CaR)にアロステリックに作用し,Ca濃度が上昇した場合と同様に副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌を抑制する物質をcalcimimeticsと称する.維持透析下の二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)患者を対象に,本邦で最初に治療薬として開発され臨床適用されたcalcimimeticsであるシナカルセト塩酸塩(以下,シナカルセト)は,血清PTH及びCa濃度を適正にコントロールすることで,副甲状腺摘出術の施術数を激減させた.一方,シナカルセトには悪心・嘔吐等の上部消化管障害を惹起する副作用があり,薬剤の増量が困難となる場合や服薬コンプライアンスの低下が問題である.種々の検討により,シナカルセトは上部消化管に直接作用して上部消化管障害を惹起することが明らかとなり,シナカルセトの問題点を改善し,広く安全なSHPT治療を目指して開発されたのがエボカルセトである.エボカルセトは,シナカルセトと同様に,CaRに対してアロステリックモジュレーターとして作用する.一方,その代謝経路はシナカルセトと異なり,チトクロームP450での代謝を受けにくいため,高い生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)を獲得した.そのため,シナカルセトに比べて少ない服薬量でも十分な薬効を発揮する.そして服薬量が減じられた結果,エボカルセトは上部消化管に対する作用がシナカルセトに比べて少ないことが,種々のin vivo評価系を用いた検討において明らかとなった.臨床試験においても,シナカルセトを対照とした二重盲検比較試験で上部消化管障害が少ないことが確認され,今後,実臨床においてもその真価が発揮されることが期待される.

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