2019 年 154 巻 4 号 p. 186-191
細胞膜から突出する一次繊毛はヒトのほとんどの細胞に存在し,さまざまな外部シグナルを受容するアンテナとして機能する.繊毛の形成不全や機能異常が嚢胞腎や網膜変性などの多様な症状を呈する繊毛病を引き起こすことが明らかになるにつれて,繊毛の重要性に注目が集まってきた.繊毛がアンテナとして働くためには,特定の受容体やイオンチャネルが選択的に繊毛に局在する必要がある.Gタンパク質共役型受容体(GPCR)などの積荷タンパク質は,繊毛内タンパク質輸送(intraflagellar transport:IFT)装置によって運ばれる.IFT装置は3つのタンパク質複合体(IFT-A複合体,IFT-B複合体,BBSome複合体)と2つのモータータンパク質(キネシン2とダイニン2複合体)を含み,全部で40以上のサブユニットから成る巨大なタンパク質複合体である.IFT装置を動かす2つのモータータンパク質は繊毛内タンパク質輸送の根幹であるにも関わらず,キネシン2がIFT装置とどのようにして連結しているのか,ダイニン2複合体はどのようにして構築されるのか,ダイニン2の各サブユニットの機能の違いは何かなど,基本的な分子メカニズムがわかっていなかった.筆者らは『観るだけでわかるタンパク質間相互作用解析法(VIPアッセイ)』とCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を活用することによってこれらの問題に取り組んだ.本稿では筆者らの最近の研究成果を中心にして,繊毛内タンパク質輸送を担う2種類のモータータンパク質の構築様式と機能について解説する.