日本薬理学雑誌
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特集:シグナル受容器・一次繊毛を標的とした薬理学研究の展望
一次繊毛を介した細胞増殖の分子機構
斎藤 将樹大津 航
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2019 年 154 巻 4 号 p. 197-202

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抄録

一次繊毛は細胞膜が突出して形成されるシグナル受容器である.細胞周期G0/G1期に中心体由来の基底小体を基にして,1細胞あたり1本形成される.特異的な増殖性刺激を受容すると短縮・消失してG1/S期に再駆動するため,細胞増殖を促進する.細胞増殖作用は,主に胎児期における種々の臓器形成に重要である.血球系を除くほとんど全ての細胞種に形成されるため,一次繊毛の形成異常および一次繊毛シグナルの破綻は,脳,眼,鼻,耳,心臓,肺,肝臓,腎臓,骨など種々の臓器の形成不全につながる.これらの先天性遺伝性疾患を総称して繊毛病と呼ぶ.しかし,繊毛病の病因には不明なことが多く残されており,さらなる分子機構の解明が必要である.特に,一次繊毛の短縮・消失機構は,Aurora Aキナーゼやヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)6による制御機構が2007年に初めて報告されたが,まだ知見は乏しい.Tctex-1(t-complex testis expressed-1)は細胞質ダイニン軽鎖の一種で,細胞内物質輸送を制御する.Tctex-1はまた,リン酸化されると細胞質ダイニン複合体から遊離してダイニン非依存的な役割を果たす.本稿では,一次繊毛の短縮・消失機構の現状についてリン酸化Tctex-1による分子制御機構を中心として解説する.

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