日本薬理学雑誌
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特集:必須微量金属研究のパラダイムシフト
肥満・糖尿病とその合併症における生体内鉄蓄積と鉄制限による治療応用への可能性
堀ノ内 裕也池田 康将玉置 俊晃
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キーワード: , 酸化ストレス, 肥満, 糖尿病
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2019 年 154 巻 6 号 p. 316-321

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抄録

鉄は生体内に最も多く存在する生命機能維持に必須の微量金属元素であり,赤血球のヘモグロビン合成,各種細胞における酸化還元反応,酵素活性,細胞増殖ならびにアポトーシスなどに関与する.そのため,貧血に代表される鉄欠乏疾患はよく知られているものの,鉄過剰疾患はあまり注目されてこなかった.過剰な鉄はフェントン/ハーバー・ワイス反応を介して酸化力が強力なヒドロキシルラジカルを生成し,遺伝性鉄過剰疾患における臓器障害の原因となるが,C型肝炎やアルツハイマー病などの従来は鉄と無関係と考えられていた疾患においても鉄が病態に関与していることが明らかとなり,生体内での鉄の役割が改めて注目されている.近年,生体内鉄量の増加が肥満ならびに糖尿病と関連することが示唆されており,鉄は肥満・糖尿病の増悪因子の可能性がある.しかし,肥満・糖尿病における鉄除去の効果については不明であった.我々は,肥満・糖尿病モデルKKAyマウスを用いて,鉄キレート剤投与が酸化ストレスや炎症を低減して,脂肪細胞肥大の進展が抑制されること,糖尿病性腎臓病モデルdb/dbマウスでは,食餌性鉄制限が酸化ストレスを減少して,アルブミン尿排泄増加や糸球体病変を抑制することで糖尿病性腎臓病の進行抑制につながることを報告した.本稿では,肥満・糖尿病とその合併症における鉄の役割と鉄制限による治療応用への可能性について,我々が明らかにした研究成果を含めて概説する.

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