日本薬理学雑誌
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新規非ベンゾジアゼピン系抗不安薬, Buspironeおよびその代謝物1- (2-Pyrimidiny1) piperazine (1-PP) の脳波学的研究
川崎 博己中村 茂高崎 浩一朗
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1990 年 95 巻 3 号 p. 91-104

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抄録

新しい非ベンゾジアゼピン系抗不安薬であるbuspironeの脳波作用を, 慢性電極を植え込んだ無麻酔ウサギを用いて, 行動の観察と同時に調べ, diazepamと比較した.また, buspironeの主代謝産物である1- (2-pyrimidinyl) piperazine (1-PP) の脳波作用についても検討した.buspirone 0.1-1mg/kgの静脈内投与により, 自発脳波は, 皮質および扇桃体では低電圧速波となり覚醒波が持続した.海馬では, 投与後から10分間頃まで規則正しいθ波の脱同期化がみられ, その後, 同期波が持続した.また, 海馬脳波の電圧は著明に低下した.1-PPでは, 0.5-2mg/kgの静脈内投与により, 自発脳波は皮質および扁桃体では高電圧徐波, 海馬ではθ波の脱同期化が起こり, 傾眠パターン化した.diazepam1-2mg/kgの静脈内投与では, 皮質および編桃体の脳波は高電圧徐波, 海馬ではθ波は脱同期化し速波となり自発脳波は傾眠パターン化を起こした.buspirone投与後は, 動物は行動上興奮状態となり, しばしば体動を示したが, 1-PPおよびdiazepamでは行動上鎮静状態が観察された.buspironeは, 音刺激あるいは中脳網様体および視床下部後部電気刺激によって誘発される脳波覚醒反応に影響を与えなかったが, 1-PPは, 音刺激による覚醒反応のみを軽度抑制し, diazepamは, いずれの刺激による覚醒反応も著明に抑制した.閃光刺激によって後頭葉皮質上に誘発される光誘起反応はbuspironeおよび1-PPによって影響されなかったが, diazepamはこの反応を抑制した.buspirone, 1-PPおよびdiazepamのいずれも視床内側中心核の低頻度刺激による漸増反応に影響を与えなかった.大脳辺縁系の海馬電気刺激による後発射は, buspironeおよび1-PPによって増強されたが, diazepamはこの後発射を著明に抑制した.以上, buspironeは, 皮質脳波の覚醒パターン化を起こし, 脳波覚醒反応や光誘起反応に対する作用がないなど, diazepamとは質的に非常に異なった脳波作用を示す新しい抗不安薬である.

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