抄録
癌細胞の抗癌剤に対する感受性の低下を防止し,その耐性を改善する目的で,レセルピンを用いてアントラサイクリン系抗癌剤に対する作用をin vitroで検討した.レセルピン(1μg/ml)はドキソルビシン耐性マウスP388白血病(P388/DOX)細胞に対してドキソルビシンおよびその新規誘導体ピラルビシンの殺細胞作用を強め,耐性を改善させた.しかし,レセルピンは感受性細胞に対してはこのような影響は認められなかった.レセルピンはP388/DOX細胞内へのドキソルピシンおよびピラルビシンの取り込みを著しく増大させ,それはドキソルビシンよりもピラルビシンで大きかった.なお,この影響にはレセルピンの接触時間が大きく関与することを認めた.P388/DOX細胞に一旦取り込まれたピラルビシンの細胞外排出量は,ドキソルビシンの場合と比べ非常に大きかった.この耐性細胞からのピラルビシンおよびドキソルビシンの排出はいずれもレセルピンにより著しく抑制された.耐性細胞に対するドキソルビシンおよびピラルビシンの殺細胞作用のレセルピンによる修飾は,細胞膜の排出機構の亢進に対し抑制的に作用し,細胞内の薬剤濃度を増加させたことが関係しているものと思われる.