抄録
1985年4月から1995年3月までに当科で治療した陳旧性顎関節脱臼8症例について臨床的検討を行った。
8症例の内容は男女比1:3で女性に多く, 平均年齢は60.9歳 (48歳から72歳) であった。全身的既往を有していたのは7例で, 精神科疾患2例, 脳梗塞2例, 消化器疾患2例, 悪性腫瘍 (乳ガン) 1例であった。脱臼の契機は全身麻酔の挿管時が4例と最も多かった。脱臼期間は2か月から2年 (平均6.4か月) であった。
治療は顎関節部に侵襲を加えることなく, 徒手法 (2例) 次いで骨鈎法 (4例) を試み, これらが無効な症例に対して顎間牽引法 (2例) を適用することにより全例で整復に成功した。術後2週間の開口制限ののち顎運動および咀嚼訓練を行った。
経過観察期間は6か月から2年 (平均1.1年) で, 1例に顎関節脱臼の再発がみられた。術後の顎関節エックス線像で, 顎間牽引法の2例に下顎頭および関節結節の平坦化が顕著にみられたが, 臨床的には問題なかった。