抄録
今回,われわれはX線および,内視鏡検査で特異な経過を観察し得た食道腫瘍の患者で,手術後,病理組織学的に食道結核と診断した一例を経験した.症例は50歳の女性,食道胃物感を主訴として入院した.X線検査で中部食道に表面平滑なほぼ卵円形の陰影欠損がみられ,内視鏡所見でも上門歯列から約25cmの部位に粘膜下腫瘍を思わす病変を認めた.28日後のX線検査で腫瘍の表面はくずれ,潰瘍を形成していた.内視鏡所見では腫瘍の中心に境界鮮明な潰瘍を形成し,その潰瘍底は凹凸不整であった. 直視下生検を繰り返し行ったが確診が得られず,非上皮性悪性腫瘍を疑い手術した.切除標本の病理組織学的検討により,乾酪壊死を伴う類上皮細胞結節を多数みとめ,ラングハンス巨細胞も散見され,食道結核と診断した.食道結核は,極めて稀な疾患であり本邦鰻告例では,過去に20例をみるにすぎない.とくに粘膜下腫瘍のかたちのものが短時日のうちに潰瘍形成をきたし,しかもその経過をX線および内視鏡的にとらえ得た例は非常にめずらしいので文献的考察を加え報告した.