抄録
内視鏡的逆行性胆道造影を施行中,食道表層粘膜が食道のほぼ全周,全長にわたって筒状に抜去された極めて稀な症例を経験したので報告する.患者は60歳の女性で,Olympus JF-B3を用いてERCPを施行した.ファイバースコープ抜去直後白い半透明の索状物が少量の凝血塊と共に吐出された.吐出標本は直径2cm,長さ30cmで薄い筒状を呈し,組織学的には分化した扁平上皮組織で構成され基底細胞より表層で剥離した食道表層粘膜であった.患者は軽度の咽頭痛を訴えたが保存的療法により約1週間で症状は消失した.この間発症4日目に食道造影を行ったが,何ら異常所見を認めなかった.現在発症より約1年経過しているが,食道に狭窄症状はなく,通常の生活を営んでいる. 本症例は病理学的になんら粘膜剥離の原因と思われるものはなかった.かかる食道表層粘膜剥離が内視鏡挿入に合併した報告はなく,極めて稀な症例なので報告した.