抄録
43歳女性で,前庭部小彎と胃角部後壁に認められた多発性胃潰瘍症例が極めて稀な治癒経過を示した1例を報告した・前庭部小彎に発生した潰瘍は約2ヵ月で瘢痕治癒したのに対し,胃角部の潰瘍は経過中白色ポリープ状に潰瘍底が隆起し,初診後9ヵ月目にやっと赤色瘢痕化した.また,このポリープ状隆起物は表面に再生上皮を認めず,組織学的(HE染色)にはhematoxylin好染性物質の介在した肉芽であった.更に,この物質について組織化学的に検討した結果,一度再生した上皮が何らかの原因により潰瘍底表面を被覆する事が出来ずに肉芽内で死滅の運命を辿り,その結果生じた細胞核様物質ではないかと推測された.