抄録
比較的まれな疾患である中部食道潰瘍の口側辺縁に併存し,その特異な経過のため診断に苦慮した食道癌の1例を経験した.患者は,56歳女性で,前胸部痛を主訴として来院.上部消化管造影および食道内視鏡検査の結果,急性中部食道潰瘍として入院した.入院後約2週で潰瘍は急速に治癒したが,潰瘍口側の周堤部分は徐々に増大隆起の傾向を示した.この口側隆起部の肉眼所見から癌を疑い数度生検を施行したが,悪性所見は得られなかった.約1カ月後,隆起はさらに著明となったので,その中央のわずかな陥凹面から今一度生検を行ったところ、扁平上皮癌の像を得たため手術した.術後の病理組織学的検索では,腫瘍は隆起部に一致してみられ,大部分が正常粘膜で覆われ,一部しか表面に露出していなかった.このような腫瘍の形態および急性潰瘍の経時的変化が,本症例の確診に苦慮した理由であったと考えられる.