抄録
放射線性肝炎の概念の提唱はあるが腹腔鏡による表面像についての見解は必ずしも一定していない.よって,われわれの経験した放射線性肝炎を検討した結果について述べる.患者は嚥下困難を主訴とした62歳男性で,下部食道から胃噴門部に浸潤する食道癌の症例である.放射線治療前の肝機能は正常で肝シンチグラフィーでも異常所見はなかった.1,400rad照射した後よりトランスアミナーゼ上昇が認められ,6,000radの放射線治療終了後の肝シンチグラフィーでは,照射野に一致してテクネフチン酸の取り込みの低下がみられた.腹腔鏡で観察すると,照射野に入っていない肝右葉は表面平滑で小葉紋理は保たれていた.しかし,照射野にあたる左葉は著明に萎縮し,被膜は高度に混濁しており,樹枝状の太い白色紋理様所見が観察された.また鎌状靱帯付近の萎縮性変化が強かった.肝生検組織所見では,右葉ではほぼ正常であったが,照射野にあたる左葉は肝細胞索の乱れがあり,細胞自体にも大小不同・変性がみられた.本症例は放射線性肝炎と考えられる1例であり,その腹腔鏡検査所見について文献的考察も加えて述べた.