抄録
樹木年輪の水素,炭素および酸素同位体比は,環境を再現する指標になることが広く知られている。しかし,硫黄同位体比(δ34S)は,その極めて低い硫黄濃度のために通常の手法では測定が困難であることから,その有用性について未だに良く理解されていない。本研究では,九州の都市部と山岳部で採取した樹木年輪のδ34S値を大容量のOxygen Bomb法を用いて調べた。樹木年輪のδ34S値を過去の大気中硫黄濃度およびその発生源の値と比較することにより,樹木年輪の値が発生源に依存しているという明らかな証拠を見つけた。この証拠は,樹木年輪のδ34S値が,大気中硫黄発生源の歴史変遷を探る指標になることを示唆している。