抄録
深海熱水活動域には、熱水噴出孔から供給される化学物質と海水との混合によって生じる化学的な勾配によって多様な微生物生態系が育まれている。活発な熱水活動域に見られるチムニーには鉄や硫黄が主要な元素として含まれており、それら固体状の鉄や硫黄は微生物のエネルギー源に利用されていると考えられる。既往の研究において、熱水活動が停止した場所で採取されたチムニー表面の微生物叢は、活発なチムニーの表面に生息する微生物叢とは異なることが報告されており(Suzuki et al., 2003)、検出されたそれら微生物群のエネルギー源は固体状の鉄である可能性がある。本研究では、パイライト(FeS2)をチムニーにみたて、深海の熱水活動域周辺と非熱水活動域の両者において、どのような微生物群が固体状の鉄をエネルギー源として利用できるのか、また熱水の存在がエネルギー源として固体状の鉄を利用する微生物群にどのような影響をもたらすのかを明らかにすることを目的とした。